体験消費時代のマーケティングヒント

2021-10-15 17:15:00

みなさんこんにちは、和田康彦です。

 

107日に関東地区を襲った最大震度5強の地震をきっかけに、アキレスの「20キロ歩けるパンプス」に注文が殺到。売り上げが40倍に伸びていると話題になっています。

 

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このパンプスが発売されたのは2013年。きっかけは2011年の東日本大震災でした。当時、首都圏では電車が止まり多くの人が歩いて帰宅しました。

 

アキレスシューズの女性社員も、会社から家まで実際に20キロを歩いて帰った際、足を痛めてしまい、20キロ歩いてもそんなに足が痛くならないパンプスがないかな、というのが開発の始まりだったそうです。

 

開発は、順天堂大学 スポーツ健康科学部バイオメカニクス研究室との産学協同プロジェクトでスタート。20キロ歩く試験を繰り返し、その実験データをもとに、歩行メカニズムを徹底分析して生まれたそうです。

 

その秘密はインソールにあります。全面にフワフワでへたりにくい高反発素材、踵に低反発素材を使用し歩行をスムーズにアシスト。柔らかなクッションが足裏全面をサポートし、歩行時の衝撃と負担を軽くします。3つのやわらかなクッションが足裏全面をサポート。歩く時の衝撃や負担を軽くし、スニーカーのような履き心地のパンプスが実現しました。

 

ブランド名は「ALL DAY Walk」ですが、「20キロ歩ける」という体験価値やベネフィットがわかりやすく、口コミで拡散。現在では同社の主力ブランドに成長しています。

 

歩きやすいパンプスはこれまでにも各社から発売されていますが、ほとんどがその機能性を製法からアピールするばかりで、女性には良さが伝わっていないことが多かったように感じます。

 

20キロ歩けるパンプス」は、「えー」という驚きと、その一言ではきやすさ、歩きやすさも伝わってきます。

 

今回の売上40倍のニュースを聞いて、やはりお客様は「わかりやすいベネフィット」と「幸せになる体験」を求めているのだな、と痛感しました。

 

「商品やサービスではなく、幸せを売れ!」あなたの会社の商品やサービスも打ち出し方を変えるだけで大ヒットする可能性を秘めています。

2021-10-13 13:13:00

 

みなさんこんにちは、和田康彦です。

 

2014年秋から建て替え工事を進めてきた阪神百貨店梅田本店は、108日に地下など一部売り場を除いて先行オープンしました。

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ストアコンセプトは、「毎日が幸せになる百貨店 live in clover everyday」で、お客の「毎日の幸せ」がきっと見つかる、ライフスタイルや嗜好性で編集されたフロアを展開しています。

 

先日、オープンしたての阪神百貨店梅田本店を早速ウォッチングしてきました。

 

目玉は、なんといっても「食の阪神」をさらに強化したことです。全11フロアの内地下2階~地下1階、地上1階、9階の4フロアが食に関するフロアとなり、外食・中食・内食、さまざまなシーンで好みのおいしさを提供。各階には個性派カフェやレストランを配置し、食べる楽しみを前面に打ち出しています。食関連売り場は、2022年春の全面開業時には全体の4割を占める計画です。

 

このところ「食」の楽しみ方は、集う、いやす、撮るなど、味わう以上にエンターテイメント性が重要視されています。そこで今回のリニューアルでは、「大阪の台所」と呼ばれたデパ地下に加え、1階では新本店のシンボルフロアとして、エンターテイメント型の食体験を提供。主導線の真ん中には、天井高約6m、北側全面ガラス張りの開放的な空間に、集い、味わう、全く新しい食体験スペース「食祭テラス」を配置しています。ここでは、毎週、和菓子や弁当、お好み焼きなどのテーマでイベントが開催され、集客の目玉として位置づけられています。

 

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そして白を基調としたガラス張りの開放感あふれるフロアには、パン、コーヒー、お茶などを専門に扱う店舗が集まり、「上質な食」を「手軽に」楽しめる売り場構成になっています。中でも、全国から700種類の銘菓やスナックを集めたおやつ売り場は、一つからでも買うことができ、各地の美味しさを手軽に味わうことができます。また毎日30種類の食パンが品揃えされている上質パンのセレクトショップも大人気です。

 

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地下2階に新設された「阪神バル横丁」では、和食、中華、イタリアンなどのバルが集合。ランチからディナーまで、女性の一人客でも気軽に楽しめる空間になっています。

 

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さらに9階には、注目のフレンチ、創作中華の名店など、大阪に新たな風を吹かせる話題店の料理が楽しめるフードホール「阪神大食堂」が新設。ここでも高級感のある上質な料理が手軽に楽しめるようになっています。

 

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このほか、阪神百貨店梅田本店では、お客の関心事を軸に構成した売場の単位を「ワールド」と定義し、商品カテゴリーを横断したライフスタイル提案や、手軽に今を感じるトレンド集積など、それぞれのフロアで独自の体験を提供しています。

 

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また、市場が成熟化し、人それぞれの趣味嗜好が多様化した現在、ニッチなマーケットに対し、「好き」を共有するコミュニティ形成するため、タイプにあわせた体験スペースを、全館で50カ所に設置しています。

 

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さらにSNSツールを活用して、お客と双方向でコミュニケーションできる公開型スタジオ設備を設置、クリエイターや生産者も交え、リアル店舗の活気をコンテンツとして提供するほか、パーソナライズされた体験を提供する9カ所のサロンでは、時を過ごすことが楽しい、ゆったりした空間で、お客にあわせた思い思いの買い物体験を提供します。

 

そして、気軽に参加・体験できる37カ所のイベントスペースでは、顧客の興味軸に沿ったテーマ編集でモノの魅力にとどまらない体験を提案。さらに、「ナビゲーター」と呼ぶ従業員を100人規模で売り場に配置。化粧品、靴下など得意分野の商品の魅力を伝えることで、従業員のファンをつくり、顧客との友達的な関係づくりを目指します。

 

一般百貨店の食品売上比率は23割といわれている中、阪神百貨店梅田本店は建て替え前から4割と高く、20233月期には、食品売上比率を58%に引き上げ、店舗全体売上730億円を計画しています。

 

従来のトレンドやステータスといった価値観を重視した品ぞろえから、日常や暮らしを重視した新しい店づくりへ。停滞する百貨店復活のキーワードは、「上質を手軽に。」生活者が心豊かで幸せになる社会を創造していくことにあります。

 

 

2021-10-10 10:20:00

みなさんこんにちは、和田康彦です。

私が、京都精華大学の学生にアンケート調査した結果が、2021年10月8日付繊研新聞に取り上げていただきました。

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2021-09-22 10:01:00

 

みなさんこんにちは、和田康彦です。

日経リサーチは、消費者やビジネスパーソンが企業ブランドをどのように評価しているかを多角的に分析した2021年版「ブランド戦略サーベイ」の調査結果をまとめました。

 

総合得点ではアップルジャパンが3年連続で首位に。2位にはグーグルが入り、米国のIT(情報技術)大手のブランド力の高さが示されました。日本企業では3位のソニーグループが最高となりました。

 

上位企業の特徴を見ると、長期化するコロナ禍の中で、ネット、リアルに限らず新しい生活様式に必要な基盤を提供し、変化する生活者の気持ちに寄り添ったブランドが評価を上げていることがわかります。

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以下、今回の調査結果から注目すべきポイントを見ていきましょう。

 

●アップル ジャパンが3年連続1

2019年から3年連続で首位をキープ。昨年から本格的にスタートした5G回線を背景にiPhoneの販売が堅調に推移したこと、遠隔学習や在宅勤務でiPadMacの需要が増えたことなどが理由にあげられます。加えて音楽・動画配信などサブスクリプション型のサービスも伸びており、常に新しいプロダクト/サービスを提供し続けていることが高評価の背景にあるとうかがえます。

 

●コンシューマー編で大きく躍進したグーグルが総合2位に

巣ごもり環境下で自宅で過ごす時間が増える中、YouTubeの利用者数が大幅に増加したことや、新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」をはじめとした各種アプリの配信でプラットフォーマーとして存在感がさらに高まったと考えられます。

 

●第一四半期で過去最高の業績を記録したTOTO7

自宅時間が増える中、「自宅をより快適にするにはどうすれば良いか」といった関心が消費者の中で高まり、リフォーム需要として顕在化しました。特に、日々使用する頻度の高い洗面所やトイレ、手をかざして水が出る自動水栓といった水廻り製品が受け入れられており、コロナ禍による衛生意識の高まりの影響も評価を上げた背景にあると考えられます。

 

●トヨタ自動車がトップ10に返り咲き

9位にはトヨタがランクイン。直近2年は10位台にランキングを落としていましたが3年ぶりにトップ10入りを果たしました。コロナ禍からの回復がいち早く進む米国や中国で販売台数を大幅に伸ばしたことや、国内でも小型車「ヤリス」などの販売が好調であることが評価を上げていると見られます。

 

●SDGs取り組み認知度1位はトヨタ自動車

また今回の調査から新たに、SDGsへの取り組みの認知状況を測定しています。結果は、コンシューマー、ビジネスパーソンともにトヨタ自動車が認知度トップで、自動車業界を中心に取り組み認知が浸透している様子がうかがえました。

 

「ブランド戦略サーベイ」は企業のブランド力をコンシューマー(消費者)とビジネスパーソンという2つの視点から評価する年1回のインターネット調査です。2003年にスタートし、今年で19回目になります。今回は202167月に実施しました。

 

ブランド力は「愛着度(ビジネスパーソンは企業魅力度)」、「自分必要度(ビジネスパーソンはビジネス有用度)」、「プレミアム(ブランドプレミアム・価格プレミアム)」、「独自性」、「推奨意向」という5つの指標に基づいて算出した「ブランド知覚指数(PQPerception Quotient)」によって評価しています。

 

 

2021-09-22 08:45:00

みなさんこんにちは。和田康彦です。 

新型コロナウイルスの影響で、世界中の健康意識が高まっています。体力がないと命の危険につながると感じる人々が増加し、事態が収束した後も、健康を重視する動きは続くと思われます。  

ところでみなさんは「ルルレモンアスレティカ」という会社をご存知ですか。女性にはご存知の方が多いと思いますが、男性にはまだあまり知られていないのではないでしょうか。

 ルルレモンは、1998年、チップ・ウィルソンがカナダのバンクーバーで創業したアスレチックウエアのブランドです。レディス向けのヨガパンツの販売からスタート。質の高い商品とヨガブームが相まって、ヨガをライフスタイルに取り入れるヨギー(ヨガ愛好家)の支持を集めて人気ブランドに成長しました。今では、カナダ、アメリカを基点に中国、欧州、日本で約500店超を展開。Eコマースを強化することで業績を拡大しています。

 

ミッションは、顧客の目標達成をサポートすること 

同社のHPでは、ルルレモンのストーリーを以下のように紹介しています。 

「1998年にlululemonを創業したチップ・ウィルソンは、カナダ・バンクーバーの海沿いの街Kitsilanoに、昼はデザインスタジオ、夜はヨガスタジオの顔を持つスペースをオープンしました。

 

そこはただ単にスポーツウェアを売る店でなく、地元のコミュニティが集まり、健康的な生活やマインドフルネスについて語り、可能性に満ちた人生を生きるハブとして存在しました。そこに訪れるゲストといい関係を築き、彼らが何を求めているのか、どんな風に汗を流すのか、そして彼らの目標達成をサポートすることがチップのストアにとって大切なことでした。ゲストとのつながりを大切にするこの姿勢は、ブランド創設から20年が経ち、世界中で500以上のストア展開をする現在でも、ひとつひとつのlululemonストアに息づいています。」

 

2020年1月期の売上高は、前年比21%増の39億7929万ドル(約4297億円)、営業利益は前年比26%増の8億8911万円(約960億円)、純利益は前年比33.4%増の6億4559万円(約697億円)と二桁の増収増益を果しています。ちなみに売上に対する営業利益率は22.3%で、低迷する日本のアパレル企業からは想像もできない高い利益率を実現しています。

 

またコロナ禍の中での2021年1月通期決算は、売上高が前期比10.6%増の44億187万ドル(約4842億円)、営業利益は同7.7%減の8億1998万ドル(約901億円)、純利益は同8.7%減の5億8891万ドル(約647億円)と、パンデミックによる直営店の閉鎖が影響して利益は減少したものの、売り上げは堅調に推移しています。

 

さらに。2021年5~7月期の連結決算は、売り上げが前年比6割増の14.5億ドル(約1600憶円)、純利益が前年比約2.4倍の2億ドル(約230億円)と好決算を維持しています。

  

「ファッションスポーツウエア」という新市場を創造

ルルレモンのブランドターゲットは「最高にシェイプな身体を維持するためにヨガをライフスタイルに取り入れている、コンドミニアムを所有する32歳の成功したビジネスウーマン」です。つまり、日ごろはバリバリ働いて高所得を得ているものの、ストレスも多く健康には人一倍気を配っている働く女性」と捉えるとイメージしやすいかもしれません。 

 

アメリカでは、日本と違いスポーツウエアを着たままジムに通い、運動後も汗をかいたウエアのままで自宅まで帰るのがスタンダードです。そこでルルレモンは、機能性を追求したスポーツウエアとファッション性を追求したストリートウエアのどちらも兼ね備えた「ファッションスポーツウエア」という新しい市場を創造します。今でいう「アスレジャースタイル」の先駆者として業績を拡大してきたわけです。

 

お店は、顧客との体験を共有するつながりの場 

また、ルルレモンは、当初から「単にスポーツウェアを売る店でなく、地元のコミュニティが集まり、健康的な生活やマインドフルネスについて語り、可能性に満ちた人生を生きるハブ」として店を位置付けることで、顧客とのつながりを大切にしてきました。 

 

現在では、地元のヨガインストラクターやトレーナー、アスリートなどをアンバサダーに任命。彼女たちに無料で商品を提供する代わりに、店で定期的に開くヨガやランニンググループの講師を務めてもらっています。 

 

ルルレモンの各店では、アンバサダーを招いてのイベントを定期的に開催。顧客にルルレモンの世界観を体感してもらい、ブランドロイヤリティを高めることに成功しています。顧客はイベントに参加することで、アンバサダーや店員、参加した顧客同士の絆が育まれて、ルルレモンのファンになっていくわけです。

 

 SNSで生活の質を高める情報を発信 

また、ルルレモンでは、25-35歳のフィットネスに関心を抱いている女性に向けてのSNSにも力を入れています。フェイスブック、ツイッター、インスタグラム、ピンタレスト、ユーチューブを通して、質が高く人びとのライフスタイルに溶け込むコンテンツを発信。ユーチューブでのヨガレッスンをはじめ、インスタグラムではヘルシーな料理を紹介するなど、運動する時間だけでなく生活全体で活用できるコツやテクニックを提供することでミレ二アル世代からの支持を集めています。

 

 EC化率50%を超えるデジタル時代の事業モデル 

ルルレモンは、デパートなどに委託販売せず、直営店とECによる販売スタイルで業績を伸ばしてきました。つまり価格やブランディング面で主導権を確保し、ブランドロイヤリティを高めてきたことが成功の背景にあります。 

 

また早くからデジタル化を推進。洗練されたウエブサイトやアプリを提供することで、売上に対するEC比率も50%を実現。またECにおけるフルフィルメントの効率化や個客に対するカスタマイズサービスの提供によって熱心なファンを育てています。 

 

ECでは送料、返品料を無料にすることで、買い物のハードルを低くし、リピーターの獲得にも成功しています。その結果、フィット感に対する不満も減少し返品率を減少させる効果にもつながっています。

 

 売らない接客、店員は「エデュケーター」 

さらにルルレモンは、店員に客への売り込みを禁止していることでも有名です。エデュケーターと呼ぶ店員が、商品だけでなくヨガやフィットネスに関する情報を提供。ランニングコースやヨガの上達法も教えます。このように客と一緒にヨガやランニングをすることで、坪当たりの売上は全米トップ10に入っているというから驚きです。つまり売らなくていい、買わなくていいとなると店員もお客様も楽しくなり、結果的に両者の仲が良くなって売れていくのだと思います。 

 

ルルレモン成功の要因には、①新たな市場の創出 ②EC化を推進するデジタルシフト ③アンバサダーによるコミュニティづくり ④ライフスタイルを豊かにするSNSでの情報発信等が考えられます。ただ最も重要なことは、それらの戦略を通して顧客とのつながりを醸成してきたことではないかと思います。