体験消費時代のマーケティングヒント

みなさんこんにちは。和田康彦です。
突然ですが、「ドメイン経営」って聞いたことがありますか。
▪ドメインとは
ドメインとは、経営層がステークホルダーに対して「企業が持続的な成長を可能とする自社特有の事業活動の領域」を規定したものです。
企業は持続的な成長を実現していくうえで、外部環境の変化や自社の競争優位を的確に捉え、現在および将来において自社が行うべき事業領域を選択し、企業独自のドメインを定義することが重要です。
ドメインは、単に既存事業の領域を規定するものではなく、企業の成長の方向性を示唆するものが含まれていることが求められます。
ドメインを定義する考え方として、1980年にD・F・エイベルは、顧客層(市場)、顧客機能、技術の3つの次元で事業を定義することを提唱しました。顧客層(市場)は企業が価値を提供する対象、顧客機能は企業が提供する価値で満たすべき顧客のニーズ、技術は企業が価値を提供する手段を表します。
つまり、企業は対象とする顧客ニーズを満たすための提供価値(事業領域)を明確にし、その事業領域(ドメイン)で圧倒的な存在になるため、コア(中核)となる技術やノウハウを貪欲に追求することが重要なのです。
今世界は様々な社会課題を抱えており、人々の要求も日々進化、複雑化しています。このような先行きが不透明な時代こそ、あらゆる会社が自社のドメインを明確にし、専門性を極めることで顧客幸福を実現する経営が求められています。
▪成長企業のドメインをヒントにしよう
あなたの会社も今後の更なる成長を目指して、自社のドメインを見直して見てはいかがでしょうか。そのためには、成功している企業のドメインからヒントを探ることがおすすめです。
例えば米アップルのティム・クックCEOは、「人類へのアップル最大の貢献はヘルスケア」と訴えています。
2015年発売の腕時計型端末は心電図や血中酸素、睡眠などを見張り、問題があれば警告する端末に進化させています。
また昨年更新したスマートフォン用の基本ソフト(OS)には、個人データの追跡に本人の同意を求める機能を盛り込みました。プライバシー保護はデジタル時代の安心に欠かせないという考え方がベースにあります。
さらに噂どおりEVに参入するとしたら、安全で快適な移動手段としてアピールするのではないでしょうか。
このように見ていくと、アップルからは「健康・安心」というドメインが浮かび上がってきます。
つまりアップルは単なるIT企業を目指しているのではなく、「人々の健康や安心を提供する」という顧客中心の考え方がしっかりと築かれていることが分かります。
動画配信サイトのネットフリックスのドメインは動画エンターテインメント。視聴者の好みに合ったコンテンツ配信などのため、データ科学を駆使する手法は有名ですが、それだけではありません。
オリジナル作品を安定的に制作しようと、各国でスタジオを確保し、撮影網を広げています。日本では昨年4月、アニメ制作会社とともにアニメーターの育成にも乗り出しました。
また、コミュニケーションがドメインのメタ(旧フェイスブック)は、現実空間にデジタル映像を重ねて表示する拡張現実(AR)を次世代のコンピューター基盤と位置づけています。
そこで主役になるには創業時から得意としてきたソフト開発だけでは足りません。AR眼鏡のような端末を生み出さなければならず、違和感なく人とコンピューターがつながれるよう神経科学などの研究にも力を注ぐ必要があります。そのため、社名までも「メタ」の変更したのです。
電気自動車で躍進するテスラは地球環境を守るというドメインを深掘りしています。電気自動車(EV)にとどまらず、巨大な電池工場「ギガファクトリー」を建設・運営して、持続可能なエネルギー社会への移行に向けアクセルを踏み込み始めています。
このように見ていくと、アップルもネットフリックスもメタもテスラも、社会課題を解決し、人々が豊かで幸福に暮らせることの実現を事業ドメインにおいていることがわかります。
あなたの会社がこだわる専門性は何ですか。それを磨き、生かす手立ては十分ですか。ドメインを明確にして経営することは、あなたの会社の経営資源を最大限に生かすことにつながります。

みなさんこんにちは。和田康彦です。
▪国内温泉地の宿泊施設数は25年間で18%減少。
新型コロナウィルスの感染拡大は、日本の観光業界にも大きな打撃を与えています。
環境省の調査によりますと国内温泉地の宿泊施設は2020年度に1万3千軒を割り込み、25年間で18%減少しました。温泉地の地域間競争はますます激しさを増す中、データ活用などで戦略を最適化することで温泉地を活性化する取り組みが始まっています。
▪消費額が多い上位1%の会員が全体の消費額の3割を占めている、下呂温泉。
「日本三名泉」として名高い下呂温泉では、下呂温泉観光協会が中心となり、旅館同士で宿泊データを活用しています。
さらに2021年には温泉地の飲食店や小物店など約50軒の観光情報を搭載したアプリを開発し、消費データの収集にも乗り出しました。
会員登録した観光客に店舗でQRコードを提示してもらい、「いつ」「どこで」「誰が」「いくら」使ったのか細かく把握する仕組みです。会員数はすでに9千人を突破しています。
同協会が21年度のデータを分析したところ、消費額が多い上位1%の会員が全体の消費額の3割を占めていることが分かりました。
今後はこうした固定客に対して、アプリのプッシュ通知やメール配信、好みに合った商品・メニュー開発などを進め、訪問をさらに促す考えです。
▪城崎温泉でも温泉地全体の予約状況を可視化。
同様の取り組みは、兵庫県の城崎温泉でも始まっています。
同温泉では各旅館の予約データを自動で収集・分析するプラットフォームシステムを構築。旅館は他社や地域全体のデータを参考にしながら、需要予測や宿泊プラン作りなどに生かしています。
このプラットフォームではエリア内の旅館から、自社サイトやオンライン旅行会社を通じて入った予約の日程、人数、金額、予約者の居住地域などを自動で収集。温泉地全体の予約状況を可視化し、数カ月先までの需要を予測できる仕組みです。
プラットフォームに参加する旅館は自社のデータを提供する代わりに、同価格帯の旅館や地域全体の平均データなどを閲覧できます。個別の旅館名などは特定されず、予約者名などのプライバシーにも配慮。76軒ある温泉地の宿泊施設のうちすでに45軒がデータ提供に賛同し、収集範囲は温泉地を訪れる宿泊客数の7~8割に達しているといいます。
データを活用することで、需要動向に合わせた価格設定や稼働率の低い日を休業日にするなど、利益確保やコスト削減にも役立っています。
同温泉では、固定客を確保できた団体旅行はここ数十年間で大幅に減り、嗜好やニーズが多様な個人旅行への移行が進んでいます。
今後の課題は、データを参考に経営戦略を考えられる人材の育成です。幸い、同温泉では経営者の世代交代が進み、データ共有への心理的なハードルが下がっていることもデジタルトランスフォーメーションの推進を後押ししています。
勘と経験だけに頼った経営から、顧客データを活用した客観的な経営スタイルへ。顧客中心時代のマーケティングでは、顧客データを客観的に可視化できる仕組みづくりが重要になってきています。

みなさんこんにちは。和田康彦です。
▪商売は「ひと」を相手にしているビジネス。
商売をやっていて「儲かる」のも「儲からない」のも道理があります。その道理とは、商売とは「ひと」を相手にしているということです。
お客様、すなわち「ひと」が動いて、あなたの店に来て、商品を買ってくれる。だから、売上ができるのですね。
つまり、「ひと」が商いを成立させてくれているわけです。
ですから、商いを成立させるためにはまず、「ひと」にフォーカスする必要があります。
ひとにフォーカスするとは、「ひとの気持ちをつかむ」、「ひとの感情を動かす」ということです。そのためには、まずは、人間の心を理解することが大切です。
▪人間の心の習性を理解しよう。
今日のコラムでは、人間誰もが共通して持っている心の自然な傾向について理解を深めていきましょう。
面白くない本を読んでいるとき、何処からともなくとても美しいメロディーが流れてくると、私たちの心は自然にそのメロディーに魅かれていきます。
また、美しいバラの花が咲いていれば、自然にそちらに目が向きます。何の努力もすることなく、自然に目が向きますね。
このようなことは、常日頃、誰もが体験していることです。
つまり、人間の持つ心の自然な傾向とは、もっともっと喜びを見出したい、というものなのです。心は常により魅力のあるものを求めています。そして、より偉大なもの、美しいものに魅かれて動いています。
心は、一点に留まることなく、より満足をあたえるもの、エネルギーの大きい状態へと自ら進んでいきます。
また、もっともっと拡大したい、成長したい、進歩したいと願うのも、この心の自然な傾向です。
人類が文明を進化させてきたのも、「もっともっと」と願う、心の自然な傾向があればこそです。
進歩したい、拡大したいと願い、また、より喜びを与えるもの、満足を与えるものへと向かうのが、心の持っている自然の傾向なんですね。
一旦進歩し、満足、喜びが得られても、もしその状態に留まってしまうと、心は苦痛を感じます。飽きてしまうのですね。
画家は、一枚の作品を完成すると、その時点では満足しますが、しばらくすると、もっと素晴らしい作品に取り組もうとします。
どんなに美しいバラでも、それをずっと眺めていると、やがて飽きてしまいます。同じことを繰り返す単純作業では、せいぜい40分程度しか集中できないといわれています。
人間の心は、同じものや同じことでは飽きてしまい、もっと心を喜ばせるもの、満足を与えるものを求めて動いています。進歩が阻まれ、同じ状態が続くと心は苦痛を感じてしまうものなのです。
つまり、心は常により喜びの増大する方向、より美しいもの、魅力のあるものへと、自然に魅かれるのです。
そしてより一層成長し、拡大する方向へと向かうのです。
私たちの商売で考えると、顧客は常に自分のライフスタイルをより豊かにより便利により充実させたい、と願っていることを忘れてはいけません。
顧客に提供すべきは単に機能的に優れた商品ではなく、「生活をより充実させる商品」であり「生活をより向上させる商品」つまり、顧客のライフスタイルを充実させて、豊かに楽しく暮らせる商品なのです。
しかも、人間の心は同じものや同じことではすぐに飽きてしまいますから、私たち商売人は、常に顧客を喜ばせるものや満足を与えるものやことを提供し続けなければいけません。
顧客中心マーケティングの原点は、このような人間の心の習性をしっかり理解して、常に顧客を喜ばせ続けることに挑戦していくことなのです。

みなさんこんにちは。和田康彦です。
日経リサーチ社は、コンシューマー(消費者)とビジネスパーソンの2つの視点から各業界を代表する600社の企業ブランドを多角的に評価・分析した「ブランド戦略サーベイ2022」を発表しました。
▪ブランド価値を高めるための5つの指数とは。
ブランド総合評価ランキングのベースとなる総合知覚指数(PQ)はコンシューマー、ビジネスパーソン各5つの評価項目で構成されています。調査ではまず、コンシューマーとビジネスパーソンそれぞれの評価5項目のスコアを測定し、それに基づいてコンシューマーのPQとビジネスパーソンのPQを算出。これを統合して総合PQのスコアを導き出しています。
コンシューマー、ビジネスパーソンに聞いた5つの評価項目は以下の通りです。
コンシューマー評価項目
① 自分必要度:自分にとってどの程度必要と感じるか。
② 独自性:他の企業とは違う独自性を感じるか。
③ 愛着度:その企業にどの程度愛着を感じるか。
④ プレミアム(ブランド/価格):どの程度他の企業と価格の差があってもその企業の製品・サービスを購入したいか。
⑤ 推奨意向:どの程度「ほかの人に薦めたい」と思うか。
ビジネスパーソン評価項目
① ビジネス有用度:仕事にどの程度役立つか。
② 独自性:他の企業とは違う独自性を感じるか。
③ 企業魅力度:その企業で働きたいと思うか。
④ プレミアム(ブランド/価格):どの程度、他の企業と価格の差があってもその企業の製品サービスを購入したいか。
⑤ 推奨意向:その程度「ほかの人に薦めたい」と思うか。
自分必要度(ビジネス有用度)、独自性、愛着度(企業魅力度)、プレミアム、推奨意向の5つの指標は、どれも顧客視点に立った、とてもわかりやすい項目です。
あなたの会社でも、ブランド価値を高めていくための社内の共通言語として、ぜひ有効活用していくことをおすすめします。
▪消費者評価の首位は「キューピー」
「ブランド戦略サーベイ2022」消費者からの評価では、キューピーが2年ぶりの首位となりました。その他、味の素、カゴメ、キッコーマン、ミツカン、ハウス食品、サントリーなど食品・飲食ブランドが順位を上げました。
出典:日本経済新聞2022年9月26日付朝刊
背景には、新型コロナ禍での健康志向や内食志向で、食品や飲食系ブランドが一段と身近になっていることがあります。
今回の調査では、消費者評価ランキング30社中19社が食品・飲食系ブランドが占め、19年調査の16社を上回る結果となっています。
首位のキューピーは、消費者の健康意識の高まりに呼応し、「BMIが高めの方へ」「血圧が高めの方へ」などと打ち出した機能性表示のドレッシングや惣菜の開発に注力。顧客視点に立った商品開発力が消費者に支持されています。
また「愛着度」でも、キューピー、味の素、カゴメがトップ3を占め、多くの顧客から愛されていることが分かります。
昨年の33位から19位と大きく順位を上げたヤクルトは、独自性の評価で急伸。21年に発売した乳酸菌飲料「Y1000」が、ストレスの緩和や睡眠の質向上に効果的と話題になり、スーパーや自販機で売り切れが続くほどの人気を集めました。
このように長引くコロナ禍が、企業ブランドの勢力図に大きな影響を与えていることが分かります。「健康」や「巣ごもり」「家充」が消費のキーワードになり、消費者ニーズを充たした企業がブランド価値を高めているわけです。
今年に入り、値上げが相次ぐ中、知名度が高く、ファンが多い優れたブランドの製品は、競合品よりも高い価格設定が可能で高収益を得やすいという強みがあります。
つまり、ブランド価値を高めていくことは、将来に渡って企業に利益をもたらす資産となります。
ブランド価値を高めていくためには、顧客の幸せを第一に考える「顧客中心マーケティング」が欠かせません。
顧客にとっての必要度、他の企業とは違う独自性、顧客が感じる愛着度、価格に対する許容度、人にも薦めたくなるクチコミ醸成力、この5つの指標を常に高める取り組みを社内に浸透させていきましょう。

みなさんこんにちは。和田康彦です。
▪EC利用者の伸びが鈍化。
新型コロナウイルス下で高成長を続けてきた国内の電子商取引(EC)の勢いに陰りが見え始めてきました。
ナウキャストがクレジットカードのデータからまとめるJCB消費NOWによると、ECの消費支出動向指数は2021年に19年から約2割伸長。総務省の調査でもEC支出額は同期間に3割弱増えました。
イオンはネットスーパーの売上高が22年2月期に750億円と2年で8割増加。農家や漁師から食材を取り寄せる産地直送サイト「食べチョク」は利用登録が65万人を超え、流通額が2年で約130倍に急伸。自由に外出や買い物ができないコロナ禍を経て、ECの普及ステージは着実に一段上がりました。
しかしながら、「JCB消費NOW」によると、オンライン消費額は2022年7月に新型コロナの第7波による感染拡大で再び復調しましたが、5~6月は2カ月連続で前年割れに。
Zホールディングス(HD)やメルカリなどでは2022年4~6月に物販ECの伸びが鈍化。背景には、外出自粛に伴う巣ごもり需要が一服したことが考えられますが、リアルの店舗に流れる利用客をいかにつなぎ留めるかが一段と重要になってきています。
リアル店舗での消費額が2021年10月から10カ月連続で前年を上回ったのとは対照的な動きになっています。
ヤフーやLINEを傘下に持つZホールディングスの4~6月の物販ECの取扱高伸び率は5.9%増(1~3月は7.4%増)と微増。
メルカリでも22年6月期の国内フリーマーケット事業の流通総額は前の期比12%増と期初時点で掲げていた「20%以上」の目標には届きませんでした。
▪日本のEC利用率は8.78%。
独調査会社スタティスタの22年の調査では、日本の衣食住のEC利用度は対象39カ国平均の6割弱。分野別の利用経験はレストラン予約が22%、靴のネット購入が24%、フードデリバリーは32%。21年比で5~9ポイント上がりましたが、いずれも39位と最下位という結果にとどまっています。
経済産業省の調査では2021年の消費者向け物販のEC化率は8.78%。米国(20年に約15%)や中国(同約40%)に後れを取っています。
▪リアル店舗とECの連携が重要。
では、EC拡大をコロナ対応の一過性の動きに終わらせず、さらに底上げするには何が必要なのでしょうか。
一つは行動制限が緩むなかで売り上げが伸び始めたリアル店舗との連携です。
例えば、オーダースーツのFABRIC TOKYOはショールームと採寸に特化した店を増やしています。購入はネットで済ませたいが買う前に実物を見たいという人は多く、同社ではECを併用する来店客の購買単価がECだけを使う客の2倍以上といいます。
オンワードホールディングスでもECの商品を店に取り寄せて試着した後に購入できるサービスをスタート。ECの伸びに加え、導入店の売上高もコロナ前の水準に回復する効果が出ているといいます。
また、大手各社は利用者の使い勝手を高めることで「巣ごもり依存」からの脱却を急いでいます。楽天グループとアマゾンジャパン、ZHDの3社は物流拠点を整備し、配送時間の短縮に取り組むほか、メルカリも商品の投函(とうかん)専用ポストを24年までに8倍の8千カ所に増やす計画を打ち出しています。
▪利便性だけではなく、ECでも「心の豊かさを実感できる買い物体験を」
以前のコラムでも申し上げましたが、人=顧客が求めているものは今も昔も「心の豊かさ」であり、心が豊かにならないただいきていくための消費には、できるだけお金や時間、労力などのエネルギーを使いたくないのが人間の本能といわれています。
私は、ECが伸びてきた要因は、人ができるだけエネルギーを使いたくないという即物的な買い物に対して「利便性」というベネフィットを提供してきたことが大きかったと考えています。
しかしながら、ECが今後も伸びていくためには、利便性だけでなく、人間が本来持っている「自分の人生をよりよいものにしたい」という心の豊かさを求める本能を充たしていくことが重要だと思います。
そのためには、ECと店舗の連携や、ECとテレビショッピングとの連携、ECとカタログショッピング、ECとSNSとの連携等を通して、ただモノを売るだけでなく、顧客の心を豊かにするコンテンツを充実させていくことが重要になってきます。