体験消費時代のマーケティングヒント

みなさんこんにちは、和田康彦です。
あなたが仮に羽毛布団を買いたいと思ってホームセンターに行ったとします。売り場には、18,000円と38,000円の2種類の羽毛布団が並べられていました。あなたは、どちらの価格の羽毛布団を選びますか。
私なら、18,000円の方を選んでしまうと思いますが、みなさんはいかがでしょうか。ある量販店では、7割の客が18,000円のお手頃価格を選択したそうです。
つまり、2つの選択肢しかないと38,000円が最も高額商品となるため、極端の回避で敬遠されてしまうようです。更に選択肢が2つの場合は単純に2つの価格を比較し、安い方がお得と感じられてしまうため18,000円の商品を購入する客が多くなるようです。
そこで、この量販店ではもう一ランク上の値段の58,000円の商品を置いてみることにしました。するとどうでしょう?これまで売れなかった38,000円の商品がいちばん売れるようになり、全体の売上も大きく伸びました。
なぜだと思いますか。初め2種類だけを並べたときは、お客様は38,000円の布団の価値を実感できず、18,000円でも値段の割には質は悪くなさそうだと感じ、価格の安い方に価値を見出したのではないかと推測されます。実際に私もそうでした。
しかし、一ランク上の58,000円の商品が加わることで、価格の比較ができるようになります。多くのお客様は、58,000円の布団は確かに高品質だがそこまでは必要なさそうだ、と感じたのではないでしょうか。
一方、38,000円の布団は58,000円の布団よりも質は少し落ちるかもしれないが18,000円の布団に比べると上質そうだし、値段も58,000円より手頃・・・、結果としていちばん安い18,000円の商品より値段は高くても、品質・価格の両面で納得できるものを買おうと考えたのだと思われます。
つまり、お客様から見て「上質さ」と「手頃さ」の二つの座標軸で商品をとらえたとき、羽毛布団も価格帯が2種類だけだと、高い方の「上質さ」を実感できず、価格の安い「手頃さ」の方に価値を見出したのではないかと考えられます。
そこに58,000円というより高額な商品が加わり、上中下3種類の価格の商品が並んだことで、38,000円の商品は他の商品と比較して「上質さ」を実感できるようになり、さらに58,000円の商品と比較して価格の「手頃さ」も感じられて、お客様の心をつかんだのだと考えられます。
つまり、人は、一番高いモノに対しては「安いモノよりは品質が良いはずだが、自分には贅沢だとも思える。それにもし選んで失敗だったときのがっかり感は大きい…」という心理を抱きます。
一方、一番安いモノに対しては「これを選んで、自分はケチだと思われないか」といった見栄の心理が働きます。結果として、「失敗だったときの損失が少ない」かつ「世間体を保つことができる」真ん中が選ばれやすくなるというカラクリです。このような消費者心理を「松竹梅の法則」とも呼ばれ、その比率は「松=2:竹=5:梅=3」だとも言われています。
では選択肢が4つ以上あった場合はどうでしょう?その場合「買わない」という選択をさせてしまう可能性が高くなる、ということがわかっています。なぜなら人は選択することに頭を使うことを本能的に嫌がる生き物だからです。これを「選択回避の法則」といいます。つまり多すぎる選択肢はかえって売上を落とす結果になってしまうこともあるということも覚えておいてください。
さて、松竹梅の法則を運用する場合大切なことは、真ん中の選択肢が最も売れるわけですから、売りたい商品を「竹」に設定することが重要です。
また、一番売りたい商品であると同時に一番売りたい価格帯であるということも重要なポイント。つまり「竹」商品の利益率を最も高くしておくことで、全体の底上げにも繋がります。
ところで松竹梅の価格設定はどのようにすれば効果的でしょうか。例えばお寿司屋さんの握り盛り合わせの場合、
松=9,000円 →「竹よりも4,000円も高い!さすがにここまで高級なお寿司は・・・」
竹=5,000円 →「梅よりも1500円プラスするだけで上質なお寿司を食べられそう・・・」
梅=3,500円 →「安いのはいいけれど、ちょっとネタが悪そう・・・」
このように、「梅」商品と「竹」商品を比較したときに、「最低価格のものに少しだけ足せば、良い品質のものが手に入る」と感じさせる価格設定にすることが大事です。つまり、梅と竹の価格差はあまり極端につけない方が効果的です。
一方で最高価格の「松」商品には逆に割高感を出すことで高級であることに価値を見出す人にとっての満足を引き出すポイントになります。
このように同じ商品を何種類か並べて売るときに重要なのは、お客様にとって価値を比較し、選択を納得し、消費を正当化できるような価格設定されていることが重要になってきます。

みなさんこんにちは、和田康彦です。
5月といえば新茶の季節ですね。
子供のころ「夏も近づく八十八夜♪」という歌をよく口ずさんでいたことを思い出します。
八十八夜とは、立春から数えて、88日目にあたる日のこと。「夏も近づく八十八夜…」と歌われるように、ちょうど新茶が出回る季節です。初物(はつもの)のお茶を飲むと、1年間無病息災で過ごせるとの言い伝えもあるそうです。
ところで、緑茶をはじめ、ほうじ茶や麦茶などの無糖茶カテゴリーの2023年出荷数は前年と同等で横ばいだったそうです。コンビニエンスストアやスーパーでも価格の安いプライベートブランドを販売するようになり、市場はコモディティ化していることがわかります。
いまやどのメーカーやブランドの商品も美味しく、機能的な価値は充実しており、差別化することが難しい状況にあるといえます。
そのような市場環境に中でお客様に手に取ってもらうためには、美味しさという機能的な価値だけでなく、新しい価値をつくることが重要です。
キリンビバレッジは、緑茶飲料「キリン生茶」の味わいもパッケージも刷新して2024年4月9日に新発売しました。
パッケージを見ると、生茶ロゴのサイズを小さくし、余白を多めにとった中にデザインされた雫形のモチーフが印象的です。
キリンビバレッジの担当者によると、「持っているだけでなんかちょっとうれしい気持ちになる。そんな感覚的なデザインにすることで生茶を好きになってもらい、また飲みたいと思うリピーターを増やしていきたい」との願いから今回の新パッケージが誕生したそうです。
個性や自分らしさを大切にする消費生活者が増えている今だからこそ、緑茶を「持ち物=携帯するもの」と捉えて感覚的な価値を高めていくことがリニューアルの背景にあります。
発売前に新しいキリン生茶をもってコンビニや量販店に商品説明に行くと、特に女性から「これなら買いたい」という声が多く上がり、手ごたえも十分あったようです。
機能的な価値だけで差別化できないコモディティ化の時代。特に女性客の心をつかむためには「可愛い!」「おしゃれ!」「センスがいい!」と感じてもらい、「好き」になってもらうための感覚的=情緒的な価値を創造していくことが重要になってきます。
参考文献:日経デザイン 2024年4月号