体験消費時代のマーケティングヒント

みなさんこんにちは。和田康彦です。
新型コロナウイルスの感染拡大が始まって丸3年がたち、4年目を迎えようとしています。この間、経済社会の姿は大きく変化しました。
食事のデリバリーサービスやネットショッピング、リモートワークなど私たちのライフスタイルや価値観は大きく変化。
これまで当たり前だったアナログ的な生活様式、例えば現金、ハンコ、リアルな会議などは脇に追いやられた格好になっています。
▪変化対応と存在意義の大切さ
このような世の中の変化に対応するためには「変化対応」に取り組むことがとても重要です。ただ一方で見失っていけないのは、あなたの会社がもともと大切にしてきた存在意義=パーパスです。
「西洋のいい薬を提供し、健康な社会をつくる」ことを目的に誕生した資生堂は、昨年創立150周年を迎えました。
コロナ禍の中将来を見通せなくなった資生堂の従業員は、「私たちの会社はどんな存在なのか、何のために存在しているのか」を改めて自問自答してきたといいます。
そこから導き出されたのは、「本業を通じて世の中をよくしたい。世の中の人を幸せにしたい。コロナの大切な時期だからこそ、世の中のお役に立ちたい」という存在意義を再認識するものでした。
コロナ禍の中で気づいたのは、人間は「人に会いたい」という本能を持っているということ。だからこそ、資生堂は「人に会いたい」を応援する会社であり続けたいと考えるに至りました。
化粧品は、人を前向きに、明るく、元気に、そして凛とさせてくれるものです。情緒的な存在ではあるものの、それを実感できるのは、イノベーションに裏打ちされた価値をお客様が認めているからです。
このように、資生堂はコロナ禍で、自分たちが変えてはいけないことを再認識。そこからライブコマースの素早い導入、医療従事者向け手指消毒用アルコールの提供、マスク生活に対応した口紅など、変化に対応する製品・サービスを次々に創出していきました。
存在意義が従業員含めて社内に腹落ちすることで、組織は困難を乗り越えて自走する。あなたの会社でも、改めて自社の変わらない存在意義を言語化していきましょう。

みなさんこんにちは。和田康彦です。
創業から140年以上積み重ねてきた老舗「セイコー」は、2022年10月からセイコーホールディングスとして、新たな挑戦に立ち向かっています。
これまでの時計、デバイス、ITサービスという事業の枠を超えて、新たに顧客起点でグループ内の連携を促す3つの戦略ドメインを設置しました。
その一つは、セイコーウォッチなど感性価値を訴求するグループが入る「エモーショナルバリューソリューション」。二つ目は、セイコーインスツルなど部品の金属加工が入る「デバイスソリューション」、そして3つ目がネットワーク系が入る「システムソリューション」です。
▪モノを売る会社から社会課題を解決する会社へ
狙いは、モノを売る会社から、社会課題を解決するソリューションを提供する会社に生まれかわることにあります。そのためには、顧客ニーズは何か、社会の課題をどのように解決していくのかという視点が必要になってきます。
今後は、3つの戦略ドメインが連携をはかることで、お客様や社会課題へ対応するスピードを加速し、セイコーファンを全世界に広げていくことを目指しています。
セイコーといえば、日本の精密技術を形にした高級腕時計が頭に思い浮かびます。
今後の戦略としては、「グランドセイコー」を自分自身(顧客)の分身と思ってもらえるロイヤルカスタマーの育成に注力し、ファンを全世界に広げていくことを柱においています
現在グランドセイコーの購入者の交流会には、海外を含めて約4万人の会員が所属。購入者同士の交流を通じて、信頼を深めてブランディングを醸成しています。
また、東京・銀座にあるセイコーハウス銀座では、グランドセイコーのストーリーをCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)を通じて伝えています。
▪技術を感性価値で訴求するグランドセイコー
ところで、ブランドには、技術的、感性的、社会的という3つの価値がありますが、セイコーはグランドセイコーのブランド価値を上げるために、同社にとって最も重要な技術を感性価値で訴求していくことに重点を置いています。
2020年には隈研吾氏が設計した『グランドセイコースタジオ 雫石』を岩手県雫石町に設立。自然との共生をうたった木造の工房内で職人がグランドセイコーをつくっています。こうした思いやものづくりの様子は一般公開し、ブランド価値を体感してもらうことで、グランドセイコーファンを増やしていくことにチャレンジしています。
今後は、「グループ各社がお客様の「サクセス=成功」を提供することに挑戦する」と宣言するセイコーホールディングス。再成長を実現するキーワードは顧客起点に基づいた「顧客中心マーケティング」にありそうです。

みなさんこんにちは。和田康彦です。
昨年は円安や、燃料、原材料費の高騰などから値上げを余儀なくされる企業が相次ぎました。今年に入っても値上げラッシュの流れは止まらず、最近ではマクドナルドが再度値上げするニュースに、消費者から落胆の声があがっていました。
▪消費の2極化が進行
ニュースを見ていると、相次ぐ値上げに対して「家計のやりくりが大変!」という声を多く聞きますが、実際の消費者行動はどのように変化しているのでしょうか。
ここに興味深いデータがあります。
東京大学エコノミックコンサルティングと日本経済新聞社は、生鮮品を除く加工食品14万弱の商品を対象に、2022年10月の売上データと前年同月のデータを比較する共同調査を行いました。
その結果、55%は平均より安い商品の売上が伸びている一方で、残りの45%は高価格帯の商品へシフトしていることが明らかになりました。
▪顧客にとっての価値を高めることが重要
2022年9月~11月期の小売や外食など消費系企業87社の決算を見ても、機能性を高めて値ごろ感を打ち出した独自商品を通じて客数を維持した企業が増益を達成しています。
増益社数の割合は23%で、値上げラッシュで節約志向がますます高まる消費環境の中でも健闘している企業があることがわかります。
ところでこのような増益企業を分析してみると、そこに共通するのは、単に値上げするだけでなく、顧客にとっての価値を高めていることが見えてきました。
例えば、郊外を中心に衣料品チェーンストアを全国展開するしまむらでは、値上げする中でも客足が伸びたのは、高価格帯の「クロッシープレミアム」というプライベートブランド。洗濯機で洗えるダウンジャケットや保温性に優れた肌着など、機能性の良さを体感できる商品が好調です。
セブン&アイ-ホールディングスでも、高価格帯プライベートブランドの「セブンプレミアム」約1200アイテムを順次刷新。その結果、「金のハンバーグ」など高単価品が好調に推移しています。
また、同社ではハワイなど特定地域に特化したフェアの開催で話題性を高めて集客するなどの販促策も奏功し、既存店への客足も戻ってきました。
このように、消費者が財布の紐を固く閉じている時こそ、お客様の気持ちをワクワクさせるニュースを打ち出すことが大切です。
▪健康志向は顧客の変わらない欲求
牛丼の吉野家ホールディングスでは、値上げすると同時に、野菜が豊富な「牛すき丼」など、女性の健康志向を捉えた商品で新しい顧客を呼び込んでいます。
食用油でも。定番品が売上を落とす中、コレステロールゼロを謳う商品や健康機能を売りにする付加価値の高い商品は売上を伸ばしています。
▪本格的な外食を家庭で手軽に
さらに、「スターバックス コーヒー ハウスブレンド」など、人気ブランドの名前がついている商品も堅調です。消費者は、他のレギュラーコーヒーと比較すると割高ですが、お店で飲むことを考えると決して高くないと判断しているようです。
冷凍食品では、「コチュジャンの風味豊かな具だくさんビビンバ」や「五穀ごはんと野菜を食べるカレー」などニップンの「いまどきごはんシリーズ」が好調です。
このように、外食の本格的な味を家庭で気軽に楽しめることに消費者は価値を認めているのだと思います。
2022年12月の東京都区部の物価上昇率は前年比4%増と、実質賃金が減少する中で顧客の節約志向の流れは一層強まっています。
そのような中で、個人消費は2極化し、お金をかけていいものと節約したいものの選別がより厳しくなってきています。
顧客が求めているものは、価格以上の価値を認めるものです。
企業が何の努力や工夫をせずに値上げするだけでは当然顧客は離れていきます。今こそ大切なことは、値上げ分以上に顧客が感じる価値を高めていくことです。
顧客がお金を払っているのは商品ではなく、使用価値やベネフィットです。そのためには、あなたの会社の商品やサービスを使うことで体験できる機能的な価値と情緒的な価値に磨きをかけていきましょう。