体験消費時代のマーケティングヒント
みなさんこんにちは、和田康彦です。
2014年秋から建て替え工事を進めてきた阪神百貨店梅田本店は、10月8日に地下など一部売り場を除いて先行オープンしました。
ストアコンセプトは、「毎日が幸せになる百貨店 live in clover everyday」で、お客の「毎日の幸せ」がきっと見つかる、ライフスタイルや嗜好性で編集されたフロアを展開しています。
先日、オープンしたての阪神百貨店梅田本店を早速ウォッチングしてきました。
目玉は、なんといっても「食の阪神」をさらに強化したことです。全11フロアの内地下2階~地下1階、地上1階、9階の4フロアが食に関するフロアとなり、外食・中食・内食、さまざまなシーンで好みのおいしさを提供。各階には個性派カフェやレストランを配置し、食べる楽しみを前面に打ち出しています。食関連売り場は、2022年春の全面開業時には全体の4割を占める計画です。
このところ「食」の楽しみ方は、集う、いやす、撮るなど、味わう以上にエンターテイメント性が重要視されています。そこで今回のリニューアルでは、「大阪の台所」と呼ばれたデパ地下に加え、1階では新本店のシンボルフロアとして、エンターテイメント型の食体験を提供。主導線の真ん中には、天井高約6m、北側全面ガラス張りの開放的な空間に、集い、味わう、全く新しい食体験スペース「食祭テラス」を配置しています。ここでは、毎週、和菓子や弁当、お好み焼きなどのテーマでイベントが開催され、集客の目玉として位置づけられています。
そして白を基調としたガラス張りの開放感あふれるフロアには、パン、コーヒー、お茶などを専門に扱う店舗が集まり、「上質な食」を「手軽に」楽しめる売り場構成になっています。中でも、全国から700種類の銘菓やスナックを集めたおやつ売り場は、一つからでも買うことができ、各地の美味しさを手軽に味わうことができます。また毎日30種類の食パンが品揃えされている上質パンのセレクトショップも大人気です。
地下2階に新設された「阪神バル横丁」では、和食、中華、イタリアンなどのバルが集合。ランチからディナーまで、女性の一人客でも気軽に楽しめる空間になっています。
さらに9階には、注目のフレンチ、創作中華の名店など、大阪に新たな風を吹かせる話題店の料理が楽しめるフードホール「阪神大食堂」が新設。ここでも高級感のある上質な料理が手軽に楽しめるようになっています。
このほか、阪神百貨店梅田本店では、お客の関心事を軸に構成した売場の単位を「ワールド」と定義し、商品カテゴリーを横断したライフスタイル提案や、手軽に今を感じるトレンド集積など、それぞれのフロアで独自の体験を提供しています。
また、市場が成熟化し、人それぞれの趣味嗜好が多様化した現在、ニッチなマーケットに対し、「好き」を共有するコミュニティ形成するため、タイプにあわせた体験スペースを、全館で50カ所に設置しています。
さらにSNSツールを活用して、お客と双方向でコミュニケーションできる公開型スタジオ設備を設置、クリエイターや生産者も交え、リアル店舗の活気をコンテンツとして提供するほか、パーソナライズされた体験を提供する9カ所のサロンでは、時を過ごすことが楽しい、ゆったりした空間で、お客にあわせた思い思いの買い物体験を提供します。
そして、気軽に参加・体験できる37カ所のイベントスペースでは、顧客の興味軸に沿ったテーマ編集でモノの魅力にとどまらない体験を提案。さらに、「ナビゲーター」と呼ぶ従業員を100人規模で売り場に配置。化粧品、靴下など得意分野の商品の魅力を伝えることで、従業員のファンをつくり、顧客との友達的な関係づくりを目指します。
一般百貨店の食品売上比率は2~3割といわれている中、阪神百貨店梅田本店は建て替え前から4割と高く、2023年3月期には、食品売上比率を58%に引き上げ、店舗全体売上730億円を計画しています。
従来のトレンドやステータスといった価値観を重視した品ぞろえから、日常や暮らしを重視した新しい店づくりへ。停滞する百貨店復活のキーワードは、「上質を手軽に。」生活者が心豊かで幸せになる社会を創造していくことにあります。