体験消費時代のマーケティングヒント
みなさんこんにちは。和田康彦です。
以前に、「リンクルショット メディカル セラム」の大ヒットから学ぶ、女性マーケティングのヒント。というタイトルで、ポーラ化粧品が今年の1月に発売した日本初のシワを改善する薬用化粧品が大ヒットしていることについて書かせていただきました。リンクルショット メディカル セラムは、発売1ヶ月で販売計画を大きく上回る約25万個、36億円を売上げを達成。上期トータルでは62万個と想定を超える売れ行きが続いています。2017年度の当初の販売目標を100億円に設定していたものの、1月~3月の売上が好調なことから125億円に上方修正。全売上の5%を占める大ヒット商品に育っており、この新商品効果もあって、2017年12月期の売上を期初より60億円プラスの2330億円に、また営業利益は25億円プラスの335億円に上方修正するといった内容でした。その後、7月27日には、売上を2360億円、営業利益を365億円にとさらに上方修正しています。
ポーラ・オルビスホールディングスは7期連続の増収増益を達成しており、今期の増収増益も確実になってきました。業績好調の背景には、創業者の孫でポーラ化粧品本舗の社長を経て、ポーラ・オルビスHDの社長に就任した鈴木郷史氏らマネジメント層の地道な経営革新があると言われています。2011年以降は、基幹ブランド、ポーラとオルビスの原価改善を徹底して収益を改善してきました。商品開発やリニューアルの度にパッケージや内容物を見直したり、販管費の伸びを抑えることで、2015年以降営業利益率の大幅改善を実現しています。また、若年層を取り込むことに成功した「ポーラ・ザ・ビューティ」ショップは、2016年末には647店に拡大し新たな販売チャネルの確立にも成功しています。さらに歴史あるポーラレディ(現ビューティー-ディレクター)は2016年に少数精鋭化し、13万人から4万人にまで絞り込んでいます。以前は地味でつまらない会社と言われていた同社は、今では経営陣が目指す「面白いことをやってるね」と言われる会社に大変身を遂げたのです。
今日は、日経トレンディで連載中の「経営トップが磨く“勘と感”」の中で、鈴木郷史社長が語っていた言葉からポーラオルビスホールディングスの経営革新の背景にある考え方をみてみたいと思います。
◆ビジネスマン能力より「人間力」が大事!
鈴木社長が重視しているのは社員の人間力です。企業会計やマーケティング、法務や組織運営力、分析力、交渉力といったビジネスマン能力よりも、倫理、社会常識、教養、直感、好奇心、想像力、自己の目による意味・価値判断といった人間力こそが最も重要な経営資源と考えています。人間力が重要と考える背景には「うちの会社には4000人位の社員がいるのですが、4000通りの見方、4000通りの考え方、4000通りの行動がなければ4000人いる意味はないと思っているんです。」という発言からも理解できるように、個の能力を発揮するためには個人としての人間力が問われるという考え方があることがわかります。
◆企業には変な人、異分子みたいな人が絶対必要
鈴木社長は、企業には変な人、異分子みたいな人が絶対必要とも言っています。「変な人は変なことをどんどんして他の社員の刺激になってほしい」「視野が広いとか好奇心が強いといった変な人がいないと企業の未来を切り拓くことはできない」という考え方の元、競合他社がやらないことを評価軸のひとつにしているそうです。
◆遊ぶように楽しく仕事をしよう
鈴木氏は、「遊ぶように楽しく仕事をすることを社員がやってくれたらうれしいを思います。仕事は甘くないが、つらいだけではナンセンス。もっと自由にやってよい」とも語り、独自の仕事感を語っています。
◆新たな理念を掲げて「面白いことをやっている会社」を目指す
ポーラ・オルビスHDが掲げる新たなグループ理念は、Missionとして「感受性のスイッチを全開にする」、Visionとして「ブランドひとつひとつの異なる個性を生かして世界中の人々の人生を彩る企業グループ」、さらにこれらを実現する5つの行動指針となるWayを掲げています。このミッションには、化粧品やサービスだけでなく、様々な体験、情報、文化、アートなどの独自価値の提供を通じて、人々の感受性を刺激し、人生を変えるほどのきっかけを与える存在になりたい、という思いが込められています。そのためにはまず自分たちが常に感受性と個性を磨き、輝き続ける、という決意の表れといえます。
ここまでみてきたように、ポーラ・オルビスHD好調の背景には、商品力や販売力の強さはもちろん、それらを支える素晴らしい企業フィロソフィーが人間の背骨のように脈々と息づいていることがわかります。
みなさんこんにちは。和田康彦です。
このところますます存在感を高めているドラッグストア業界ですが、今や飽和状態といっても良いくらいお店が乱立しています。また、大手企業のM&Aによって小中規模チェーン店の淘汰が進み、競合各社の競争は激化しています。
◆ドラッグストア業界は首位が入れ替わる戦国時代
2016年度の売上では、イオングループのウエルシアホールディングスがマツモトキヨシホールディングスを抜き22年ぶりに首位の座が交代しました。さらに、2017年8月7日には、ツルハホールディングスが、静岡県が地盤の同業、杏林堂薬局(浜松市)を子会社化すると発表。9月下旬に親会社の杏林堂グループ・ホールディングスの株式を、創業家などから51%取得することで2016年度の合計売上高は6665億円となり、ウエルシアホールディングスを抜いて首位になることが明らかになりました。このようにドラッグストア業界は、まさに戦国時代といえます。
◆北陸を地盤に堅実に成長する「クスリのアオキ」
そんな中、北陸を地盤に堅実に成長しているのが、株式会社クスリのアオキです。先日、石川県に帰省した際、お店を覗いてきましたのので、成長の秘密をレポートしたいと思います。
クスリのアオキは石川県白山市に本社を置き、北信越(石川、富山、福井、新潟、長野)を中心に、群馬、岐阜、滋賀、愛知、埼玉にお店を持つ中堅のドラッグストアチェーンです。1985年1月に設立。もともとは、明治初期に創業した町の薬種商が原点で、会社設立から今年で32年。2017年5月期の売上高は1887億4400万円、営業利益は106億7600万円と北陸を基盤とする超優良企業です。北信越地区を中心中心したドミナント出店戦略で386店舗を展開。店舗面積はドラッグストア業界の常識を超える平均300坪もあり、他店と比べると売場の広さに特徴があります。
◆クスリのアオキのふたつの経営方針
ところで、クスリのアオキには大切にしているふたつの経営方針があります。まず、ひとつめが「便利なお店づくり」。お客様の身近にあって、必要なものが一回で揃うことを目指しています。そのため、出来るだけ来店しやすい場所に出店し、お客様のライフスタイルに合わせた日用品や惣菜、生鮮食品といった食品部門を強化するなど、店舗を常に進化させることに取組んできました。
次に大切にしているのが、「専門性を追求した店づくり」です。セルフケアへの関心の高まりを背景に、ドラッグストアには地域医療の窓口としての役割が求められています。そのために、地域医療の一翼を担う「かかりつけ薬局」として気軽に薬剤師に相談できる体制を整えています。
◆「ドラッグストア×スーパーマーケット」の新業態店が成長を支える
さて。ここからが本題です。私が訪れたクスリのアオキ山代店は、一歩足を踏み入れると広い店内はほぼ2分されていて、右側にはまるでスーパーマーケットのような食品売り場が、そして左側にはお薬や化粧品、シャンプーなどの日用品のコーナーが広がっていました。
いちばんの驚きは、食品スーパーマーケットのような品揃えの豊富さです。入口近くには生野菜や果物のコーナーがあり、奥に行くとお肉やお魚のコーナーもあります。また、出来立ての弁当や総菜、冷凍食品も充実しており、菓子類や加工食品、調味料等の品揃えも負けてはいません。クスリのアオキでは、お客様の便利さを追求した結果、2012年からは野菜の販売をスタートし、2014年からは肉や魚の販売にも広げてきたのです。
冬は曇天続きで雪の多い北陸に暮らす人にとって、食べ物から化粧品や日用品、お薬までを一軒で買物できるお店はとてもありがたいものです。クスリのアオキはそんな北陸に住む人の潜在ニーズに応えてこの20年間で大きく成長してきました。
◆もはやドラッグストアとは言えない売上構成比
1999年には約100億円だった売上高は、2010年には約500億円、そして2014年に1000億円と突破。2017年5月期には1887億円超と急拡大。売上構成をみると、ヘルス(医薬品・健康食品等)が237億1200万円(売上構成比12.6%)、ビューティ(カウンセリング化粧品、フェイスケア商品等)は、344億5800万円(同18.3%)、調剤(薬局で処方する医療用医薬品)が186億4200万円(同9.9%)となっていますが、売上の約6割を占めているのがライフ(食品・家庭用品等)の1119億3100万円(同59.3%)となっています。つまり、スーパーマーケット並みの食品や家庭用品の品ぞろえの強化こそがクスリのアオキの成長を支えてきたことがわかります。
◆地元住民から愛されることが生き残りの条件
ドラッグストアー×スーパーマーケットの新業態店は現在26店舗。今後は、既存店舗の改修や新店舗の出店に合わせて新業態店が増えていくことが予想されます。地元住民のニーズを満たすきめ細かな品ぞろえや店づくりによってお客様から愛されることが、クスリのアオキの大いなる強みなのです。