体験消費時代のマーケティングヒント
みなさんこんにちは。和田康彦です。
このところ「ESG」ということばをよく耳にするようになりました。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったものです。今日、企業の長期的な成長のためには、ESGが示す3つの観点が必要だという考え方が世界的に広まってきています。一方、ESGの観点が薄い企業は、大きなリスクを抱えた企業であり、長期的な成長ができない企業だということを意味します。ESGの観点は、企業の株主である機関投資家の間で急速に広がってきています。投資の意思決定において、従来型の財務情報だけを重視するだけでなく、ESGも考慮に入れる手法は「ESG投資」と呼ばれています。
そんな流れの中で、2019年4月28日付の日本経済新聞では、「企業の報酬、ESGの波 偽ニュース対策・温暖化ガス削減…目標達成を後押し」という記事を掲載。役員や従業員の報酬にESG(環境・社会・企業統治)評価を取り入れる動きが世界的に広がってきていることを報じています。
例えば米フェイスブックは、2019年前半にも従業員・役員の賞与を、フェイクニュース対策など、同社が直面する社会的な課題の解決に向けた進捗状況に連動するように変更します。従来はユーザー数の伸びや売上高増への貢献度などで評価していましたが、昨年3月に個人情報の流出問題が発覚して以来、投資家から厳しい批判を受け、従業員が長期的な視点を持って働くよう促す評価体系に変えるようです。
日本でもオムロンは役員報酬のうち、中長期の業績に連動して株式報酬で支給する部分に外部評価機関からのESG評価を反映させます。コニカミノルタも役員報酬の年度業績部分を算定する際、ESGなど非財務的な評価を加える取り組みを始めています。
背景には、ESGを重視する投資家が増えていることがあります。このところ株価などにマイナスの影響が出るのを避ける狙いもあって、温暖化ガスの削減目標などを打ち出す企業が増えています。この際、ESG目標の達成が確実なものになるよう、報酬と連動させる仕組みを導入するように投資家が迫っているのです。今後は日本企業の間でもESG目標の達成度で報酬を決める動きは加速していきそうです。
企業経営においても生活者のライフスタイルにおいても「サステナビリティ」という概念が浸透しつつある中、社会や環境を意識した経営戦略や生き方がより良い未来をつくる鍵となりそうです。
みなさんこんにちは。和田康彦です。
日本の家電の歴史を見ていくと、1953年(昭和28年)、三洋電機が電気洗濯機を発売。その後、昭和30年代(1955年~1964年)には、洗濯機、冷蔵庫、白黒テレビという「3種の神器」が一気に普及しました。続いて、昭和40年代には、3C(カー、クーラー、カラーテレビ)が普及し始め、当時憧れだったアメリカン・ウェイ・オブ・ライフに近づいていきました。それ以降今日に至るまで、家電メーカーは技術革新を繰り返し、より性能の良いもの、より大型のもの、より省エネを実現できるものへとスペックを進化させてきました。つまり、家電製品は不便さを解消することで私たちの生活に役立ってきたわけです。しかし、生活が十分に便利になった今、生活者が家電に求めることは変化してきています。
2015年にバルミューダが発売した「バルミューダ ザトースター」は、2万円以上もする高価格にもかかわらず、独自のスチームテクノロジーと温度制御により、窯から出したばかりの焼きたての味を食べられるという評判を呼び大ヒット。また、独自の技術によって自然界の風を再現する扇風機「The GreenFan」は、夏の午後を吹き抜ける心地よい風を体験できるとあって、こちらも3万円台の高価格にもかかわらず話題の商品になりました。
バルミューダは、2003年、代表の寺尾玄氏が設立したクリエイティブとテクノロジーの会社。同社のミッションは「自由な心で夢見た未来を、技術の力で実現して人びとの役に立つ」。新しい考え方で、これまでになかった価値を持つ家電をつくっていくことを目指しています。寺尾氏は、「現代を生きる私たちが道具やサービスに求めているのは、驚きや感動、うれしくなるような体験なのだと思います。バルミューダは家電という道具を通して、心躍るような、素晴らしい体験を皆様にお届けしたいと考えている企業です。」と語っています。
さて、その「バルミューダ(BALMUDA)」から、子どもの目を守るためのデスクライト“バルミューダ ザ・ライト”が発売されました。製品は既存のキッチンシリーズ、空調シリーズに次ぐ3つ目のカテゴリーになります。
文部科学省の学校保健統計調査(2017年度)によると、近年の子どもの視力低下は著しく、2017年には裸眼視力が「1.0未満」の小学生の割合は32.5%と過去最高に。従来の原因にくわえ、タブレットやスマホなどのブルーライトを発する光を長時間見ることも一因と考えられ対策が必要とされてきました。
誰しも、デスクに向かい集中していると徐々に姿勢が悪くなりますが、特に大人に比べ背が低い子どもは目線が低く、とりわけ下方向が見えづらい傾向があります。そのため、手もとをよく見ようと頭を下げ、ますます視界は狭くなりさらに、上方からの照明の光による自身の頭の影が手もとを暗くしてしまいます。バルミューダ ザ ライトは、この視界と姿勢の関係性に着目。子どもの視界に最適な光で照らすフォワードビームテクノロジーを手術灯で国内シェアNo.1の山田医療照明と共同開発。離れた場所から広く手元を照らし、子どもの目線の先に影を作らない光を実現しました。
さらに、デスク上でも青空の下で見るような本来の色を再現する太陽光LEDを採用。太陽光の波長に近い太陽光LEDは、ブルーライトのピーク波長が一般的な白色LEDライトの約半分。自然光のように目に優しい光で、子どもの目の疲労を抑え、集中を妨げないことが特徴で、成長期にある子供たちの目に優しい理想的な光だそうです。
さらに、もう一つの特徴がそのデザインで、あえてシンプルな見た目にすることで照明台に文房具を刺したり、シールを自由に貼ることができるような遊び心を取り入れています。ライトの操作音はピアノ音。“90%までのデザイン”をテーマにし、最後の10%は子どもたちが自由にデザインできる余白としたとのこと。
寺尾玄・社長は制作背景について、「われわれはクリエイティブとテクノロジーの会社。クリエイティブで夢見た未来をテクノロジーで実現したいと思っている。自宅でいつも息子が机に顔を近づけて絵を描くたび、前かがみになって目が悪くならないかと心配していた。子どもが前かがみになるのは、大人と子どもの視界が異なるから。子どもたちが自由に夢を見られるために、前かがみにならずに絵を描くことができるライトを作りたいと考えた」と語っています。
開発に着手したのは2014年。ヒット商品となった「バルミューダ ザ・トースター」よりも先に動き始めていたプロジェクトなので、かれこれ4年を費やした思い入れの強い商品だということがわかります。この開発にかける熱い想いとテクノロジーの融合が、バルミューダ流イノベーションのベースになっているのだと思います。
来年以降、照明カテゴリーでのさらなるラインアップを予定。同社の2017年度の売り上げは89億円で、今年度は100億円以上を計画しています。
みなさんこんにちは、和田康彦です。
「自分たちは大きな市場は狙わない。すべて非常に特殊なニッチのサービスばかりを追求する。そのニッチ分野で世界のトップ企業になり、大きなシェアを獲得できれば、その市場で高い利益率を確保できる。ただ、それだけでグローバルに大きな企業になれるわけではない。しかし、10~20の分野でニッチトップになれば、全体として巨大な金融機関になれることも可能であるのだ。」
今から20年ほど前、当時成功を収めていたGEの(ゼネラル・エレクトリック)の金融部門であるGEキャピタルのトップの言葉です。
経済が高度成長から成熟の時代に移り、消費者の嗜好が多様化し、衣服も含めたモノへの消費に飽和感が起きています。これまで大手小売業にとってマスマーケティングの手法は欠かせないものでした。ただ、今後はその中の細かな部分で特徴を出していくことが全体としての差別化につながります。
例えば、阪急うめだ本店は、4階のシューズギャラリーにスニーカーの自主編集売り場をオープン。バイヤーが国内外からセレクトしたモードなブランドを品揃えしています。売り場面積は約50平方メートル。スニーカーを扱う既存店「スニーカーズ バイ エミ(Sneakers by emmi)」に隣接し、同店を含むスニーカー売り場を「スニーカー エディット(SNEAKER EDIT)」と名付けました。
また、高島屋は日本橋店(東京・中央)内に女性がパーティーなどで着飾るドレスを集めたコーナーなどを新設しています。
このように、百貨店のように大きな規模の店舗を運営する場合には、その中の細かな部分で特徴を出していくことが、全体としての差別化につながります。
売上規模は小さくても、キラット光る魅力ある売場を作ることが、全体の集客力アップにもつながる時代です。
みなさんこんにちは。和田康彦です。
ファーストリテイリングの柳井社長は、「できれば有明本部の半分の人員をIT(情報技術)関連にしたい。半数はインド出身者、20~30%を中国や台湾から呼ぶ。日本人もITスキルをつけないといけない。」と日本経済新聞の中でコメントしています。いわゆるSPAといわれる製造小売業においても、デジタルシフトは生き残っていくための必要条件になってきました。モノの価値から情報価値の時代へ。今、小売業を取り巻く環境は大きく変化しています。
ただ、デジタル化は目的ではなく、あくまでも目的を実現していくための一手段であると捉えることが重要です。お客様の幸せのためにデジタル技術を活用する姿勢こそが新たな価値を生み出す原動力になります。
例えば、アマゾンは「すべては顧客のために」というミッションを実現するためにデジタル技術を活用することによって成功した企業です。「膨大な売れ筋データに基づく全自動最安値仕入れシステム」 「マーケットプレイス(全世界で200万社以上)」「FBA(フルフィルメント・バイ・アマゾン)」)「プライム会員(無料配送・コンテンツサービス)」「AIスピーカー」「無人店舗/アマゾンゴー」「アマゾンブックス」「キンドル」「ファイアTVスティック」「アマゾンダッシュボタン」「定期おトク7便」「レコメンド機能」「消費者の購買データ」「スポンサープロダクト(広告)」など、これまで人の手ではできなかった様々なサービスをデジタルシフトによって実現しています。
デジタルシフトは、身近なところからも導入できます。伊勢丹新宿本店では2019年3月6~11日、メイクブランドを結集したイベント「メイクアップパーティ(MAKE UP PARTY)」を6階の催事場で開催しています。約40ブランドをそろえ、会場だけの限定品・先行発売品が登場するほか、人気アーティストによるメイクショー、各ブランドの刻印サービス、オリジナルグッズのプレゼントなどを実施。期間中の売上高は前年同期比5%増を見込んでいます。
「メイクアップパーティ」は、若年層を含めた新客獲得を目的に17年3月に初開催。3回目となる今回は、デジタルとアナログを融合したメイクのアミューズメントパークをコンセプトに展開。“デジタル”ではゆうこすなど20人のインスタグラマーを公認サポーターに任命し、会期中に情報を発信してもらい集客に一役買ってもらっています。“アナログ”では実際に来場した人に向け、常駐するメイクアップアーティストがタッチアップなどメイクアドバイスを提供。限定・先行商品を約20企画用意したほか、コト提案も充実することで新規顧客との接点を拡大する狙いです。
SNSを活用して集客に結びつけ、売場ではフェイス・トゥ・フェイスの関係づくりでお客様とのコミュニケーションを大切にする。決して大きな投資をしなくても、デジタルとアナログの効果的な融合はできそうですね。
みなさんここんにちは。和田康彦です。
肉や魚といった生鮮食品から牛乳や調味料、豆腐やパンなど、毎日の生活に必要な食品を自宅に届けてくれる食品宅配業界が元気だ。矢野経済研究所の調べによると、2016年度の食品宅配市場規模は、前年比3.3%増の2兆782億円。縮小傾向にある食関連市場の中で数少ない有望市場といえる。
仕事と家事の両立に忙しい共働き世帯や子育て世帯で利用者が増えているほか、買い物に行きづらいシニア世帯の利用も後押ししている。同研究所の予測では2021年には2兆3985億円に成長していくとみられている。
◆7月1日、オイシックス・ラ・大地株式会社が発足
そんな成長市場を狙って、大規模な企業再編や新規参入が相次いでいる。インターネット食品宅配大手のオイシックスは、2017年10月同業の大地を守る会と経営統合。次いで2018年2月にはNTTドコモよりらでぃっしゅぼーやの株式100%を譲渡し、2018年7月1日オイシックス・ラ・大地株式会社を発足させる。Oisix、大地を守る会、らでぃっしゅぼーやのサービスブランドは継続しながら、デジタルマーケティング、生産者ネットワーク、物流面でのシナジーを構築し、高付加価値な食品宅配マーケットを牽引。今期は売上610億円を目指す。オイシックスでは、2,013年7月から展開している食材とレシピがセットになったミールキット(kitoisix)が働く女性に支持されて好調。累計出荷数は1000万セット(2018年5月)を突破し、今後はNTTドコモと共同でミールキット専用のECサイトの立ち上げを計画している。その他、買い物難民を支援する移動スーパー事業「とくし丸」(2016年5月買収)も順調に拡大しているようだ。
◆セブン&アイとアスクルのLOHACOは「IYフレッシュ」開始
一方で、セブン&アイとアスクルのLOHACOは2017年11月28日より「IYフレッシュ」開始した。家事・仕事・育児に忙しい都市部の30~40代女性をメインターゲットとし、セブン&アイの商品をアスクルの配送網で新鮮なまま毎日の食卓に届ける。ロハコの1時間単位指定配達システムを活用。14時までの注文なら翌日の9時~翌々日の22時までに配達。配達手数料は、LOHACOの商品とまとめて4500円以上で無料。4500円未満の場合は350円(税込み)。スマホで毎日の生鮮品を買い物する新たな都市型生鮮宅配を目指す
◆イオンも週1回決まった曜日に食品などを届ける定期宅配事業に参入
イオンも週1回決まった曜日に食品などを届ける定期宅配事業に参入した。サービス名は「クバリエ」。2018年4月から千葉市の1店舗で開始。年内にもう一店舗増やし、事業モデルを構築し、当面首都圏で6万人の会員獲得を目指す。当初は生鮮食品、加工食品、赤ちゃん用品、専用商品として「ミールキット」など1000品目でスタート。生協のビジネスモデルを流用し、会員には毎週紙のカタログを配布、ネットで注文してもらう。会費は無料、送料は1回あたり180円、注文なくても手数料100円を徴収する。増加する高齢者や共働き世帯対応していく。
◆センター内の商品を6温度帯に分けて適温管理する「Amazon フレッシュ」
各社にとって最も脅威となるのは「Amazon フレッシュ」だ。米国で07年スタート。その後英国、日本、ドイツへ拡大、日本では2017年4月21日スタートした。果物、鮮魚、精肉、乳製品等1万7000点以上の食料品他、キッチン商品、ペット用品等の日用雑貨合計10万点以上を取り扱う。現在の配送対象エリアは、東京都の港区、千代田区、中央区、江東区、墨田区、江戸川区の6区域(一部エリアを除く)だが、今後順次拡大していく予定だ。サービスの対象者は、Amazonプライム会員に限定。プライムの会費3900円(税込)に加え、利用する会員は月額500円(税込)が必要。「Amazonフレッシュ」を30日間無料で体験できるサービスも用意している。配送は、午前8時から深夜0時までの間、2時間ごとの配送時間帯から指定可能。注文から最短で4時間後に商品を購入者の手元に届ける。注文金額が6000円(税込)以上の場合、送料無料。注文額が6000円(税込)未満の場合、1回の注文あたり配送料が500円(税込)必要となる。強みは、センター内の商品を6温度帯に分けて【① 常温(25℃前後の室温でドライ食品など用)、② 16℃(バナナなどトロピカル系用)、③ 7℃(トマト、パプリカなどデリケートな青果専用)、④ 2~5℃(葉物野菜や和洋日配用)、⑤ 0℃(チルドの肉と魚専用)、⑥ マイナス25℃(冷凍食品やアイスクリーム、冷凍肉・魚など用)】、商品毎に適温管理をしている点だ。神奈川県川崎市の物流拠点「アマゾン川崎FC(フルフィルメントセンター)」に、「Amazonフレッシュ」で扱う商材を一括して集約・管理。専用棚を設け、鮮度を徹底管理しており、刺身のような鮮度管理が重要な消費もおいしさそのままに食卓に届けてくれる。
◆楽天は西友と組んで「楽天西友ネットスーパー」を開始予定
その他、楽天は西友が運営するネットスーパー「SEIYUドットコム」と楽天の冷凍食品宅配サービス「楽天マート」を統合して「楽天西友ネットスーパー」を立ち上げ、7~9月にサービスを開始予定だ。取り扱うのは、西友の生鮮食品など1万~1万5千点と、ネット通販の楽天市場で扱っている菓子など食品の一部。東京など16都道府県で実店舗から商品を配送するほか、千葉県柏市に年内に開設する専用の配送センターからも商品を届ける。配送料や配送時間帯は未定。主なターゲットは30~40代の兼業主婦で、半調理食品や、一つのおかずに必要なカット野菜、計量済み調味料がセットになったミールキットなど「時短ニーズ」にあった商品を充実する計画だ。
◆ローソンは宅配しない生鮮品の通販「ローソン フレッシュ ピック」で対抗
また、ローソンは、宅配しない生鮮品の通販「ローソン フレッシュ ピック」を東京と神奈川の一部地域で開始した。スマホの専用アプリで、肉や野菜など約500種類の中から商品を選択すると、配送センターに商品が集められ、おにぎりや弁当など、通常のコンビニ商品と一緒に店舗へ配送。朝8時までに注文した客は、その日の午後6時以降好きな時間に、会社や自宅近くのローソンで受け取ることが可能。2018年度中に首都圏の約2,000店舗で導入し、その後全国展開する予定だ。
乱立する食品宅配市場だが、新規顧客の拡大はもちろん、その後顧客との長い付き合いを通してLTV(ライフタイムバリュー)の拡大を目指すことが重要となってくる。そのためには、安全で安心な食品をお届けすることをベースに、各社の強みを生かした美味しさの独自性で顧客から選ばれることが大切だ。