体験消費時代のマーケティングヒント

みなさんこんにちは。和田康彦です。
▪EC利用者の伸びが鈍化。
新型コロナウイルス下で高成長を続けてきた国内の電子商取引(EC)の勢いに陰りが見え始めてきました。
ナウキャストがクレジットカードのデータからまとめるJCB消費NOWによると、ECの消費支出動向指数は2021年に19年から約2割伸長。総務省の調査でもEC支出額は同期間に3割弱増えました。
イオンはネットスーパーの売上高が22年2月期に750億円と2年で8割増加。農家や漁師から食材を取り寄せる産地直送サイト「食べチョク」は利用登録が65万人を超え、流通額が2年で約130倍に急伸。自由に外出や買い物ができないコロナ禍を経て、ECの普及ステージは着実に一段上がりました。
しかしながら、「JCB消費NOW」によると、オンライン消費額は2022年7月に新型コロナの第7波による感染拡大で再び復調しましたが、5~6月は2カ月連続で前年割れに。
Zホールディングス(HD)やメルカリなどでは2022年4~6月に物販ECの伸びが鈍化。背景には、外出自粛に伴う巣ごもり需要が一服したことが考えられますが、リアルの店舗に流れる利用客をいかにつなぎ留めるかが一段と重要になってきています。
リアル店舗での消費額が2021年10月から10カ月連続で前年を上回ったのとは対照的な動きになっています。
ヤフーやLINEを傘下に持つZホールディングスの4~6月の物販ECの取扱高伸び率は5.9%増(1~3月は7.4%増)と微増。
メルカリでも22年6月期の国内フリーマーケット事業の流通総額は前の期比12%増と期初時点で掲げていた「20%以上」の目標には届きませんでした。
▪日本のEC利用率は8.78%。
独調査会社スタティスタの22年の調査では、日本の衣食住のEC利用度は対象39カ国平均の6割弱。分野別の利用経験はレストラン予約が22%、靴のネット購入が24%、フードデリバリーは32%。21年比で5~9ポイント上がりましたが、いずれも39位と最下位という結果にとどまっています。
経済産業省の調査では2021年の消費者向け物販のEC化率は8.78%。米国(20年に約15%)や中国(同約40%)に後れを取っています。
▪リアル店舗とECの連携が重要。
では、EC拡大をコロナ対応の一過性の動きに終わらせず、さらに底上げするには何が必要なのでしょうか。
一つは行動制限が緩むなかで売り上げが伸び始めたリアル店舗との連携です。
例えば、オーダースーツのFABRIC TOKYOはショールームと採寸に特化した店を増やしています。購入はネットで済ませたいが買う前に実物を見たいという人は多く、同社ではECを併用する来店客の購買単価がECだけを使う客の2倍以上といいます。
オンワードホールディングスでもECの商品を店に取り寄せて試着した後に購入できるサービスをスタート。ECの伸びに加え、導入店の売上高もコロナ前の水準に回復する効果が出ているといいます。
また、大手各社は利用者の使い勝手を高めることで「巣ごもり依存」からの脱却を急いでいます。楽天グループとアマゾンジャパン、ZHDの3社は物流拠点を整備し、配送時間の短縮に取り組むほか、メルカリも商品の投函(とうかん)専用ポストを24年までに8倍の8千カ所に増やす計画を打ち出しています。
▪利便性だけではなく、ECでも「心の豊かさを実感できる買い物体験を」
以前のコラムでも申し上げましたが、人=顧客が求めているものは今も昔も「心の豊かさ」であり、心が豊かにならないただいきていくための消費には、できるだけお金や時間、労力などのエネルギーを使いたくないのが人間の本能といわれています。
私は、ECが伸びてきた要因は、人ができるだけエネルギーを使いたくないという即物的な買い物に対して「利便性」というベネフィットを提供してきたことが大きかったと考えています。
しかしながら、ECが今後も伸びていくためには、利便性だけでなく、人間が本来持っている「自分の人生をよりよいものにしたい」という心の豊かさを求める本能を充たしていくことが重要だと思います。
そのためには、ECと店舗の連携や、ECとテレビショッピングとの連携、ECとカタログショッピング、ECとSNSとの連携等を通して、ただモノを売るだけでなく、顧客の心を豊かにするコンテンツを充実させていくことが重要になってきます。