体験消費時代のマーケティングヒント

2022-09-29 10:46:00
顧客中心マーケティングの視点。顧客データを客観的に可視化できる仕組みづくりが重要。

みなさんこんにちは。和田康彦です。

 

▪国内温泉地の宿泊施設数は25年間で18%減少。

新型コロナウィルスの感染拡大は、日本の観光業界にも大きな打撃を与えています。

 

環境省の調査によりますと国内温泉地の宿泊施設は2020年度に13千軒を割り込み、25年間で18%減少しました。温泉地の地域間競争はますます激しさを増す中、データ活用などで戦略を最適化することで温泉地を活性化する取り組みが始まっています。

 

▪消費額が多い上位1%の会員が全体の消費額の3割を占めている、下呂温泉。

「日本三名泉」として名高い下呂温泉では、下呂温泉観光協会が中心となり、旅館同士で宿泊データを活用しています。

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さらに2021年には温泉地の飲食店や小物店など約50軒の観光情報を搭載したアプリを開発し、消費データの収集にも乗り出しました。

 

会員登録した観光客に店舗でQRコードを提示してもらい、「いつ」「どこで」「誰が」「いくら」使ったのか細かく把握する仕組みです。会員数はすでに9千人を突破しています。

 

同協会が21年度のデータを分析したところ、消費額が多い上位1%の会員が全体の消費額の3割を占めていることが分かりました。

 

今後はこうした固定客に対して、アプリのプッシュ通知やメール配信、好みに合った商品・メニュー開発などを進め、訪問をさらに促す考えです。

 

▪城崎温泉でも温泉地全体の予約状況を可視化。

同様の取り組みは、兵庫県の城崎温泉でも始まっています。

 

同温泉では各旅館の予約データを自動で収集・分析するプラットフォームシステムを構築。旅館は他社や地域全体のデータを参考にしながら、需要予測や宿泊プラン作りなどに生かしています。

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このプラットフォームではエリア内の旅館から、自社サイトやオンライン旅行会社を通じて入った予約の日程、人数、金額、予約者の居住地域などを自動で収集。温泉地全体の予約状況を可視化し、数カ月先までの需要を予測できる仕組みです。

 

プラットフォームに参加する旅館は自社のデータを提供する代わりに、同価格帯の旅館や地域全体の平均データなどを閲覧できます。個別の旅館名などは特定されず、予約者名などのプライバシーにも配慮。76軒ある温泉地の宿泊施設のうちすでに45軒がデータ提供に賛同し、収集範囲は温泉地を訪れる宿泊客数の78割に達しているといいます。

 

データを活用することで、需要動向に合わせた価格設定や稼働率の低い日を休業日にするなど、利益確保やコスト削減にも役立っています。

 

同温泉では、固定客を確保できた団体旅行はここ数十年間で大幅に減り、嗜好やニーズが多様な個人旅行への移行が進んでいます。

 

今後の課題は、データを参考に経営戦略を考えられる人材の育成です。幸い、同温泉では経営者の世代交代が進み、データ共有への心理的なハードルが下がっていることもデジタルトランスフォーメーションの推進を後押ししています。

 

勘と経験だけに頼った経営から、顧客データを活用した客観的な経営スタイルへ。顧客中心時代のマーケティングでは、顧客データを客観的に可視化できる仕組みづくりが重要になってきています。