体験消費時代のマーケティングヒント
みなさんこんにちは、和田康彦です。
前回のコラムでは、函館の人気ハンバーガー店「ラッキーピエロ」に学ぶ、地域の繁盛店になるための7つのポイント。http://womanmarketing.net/info/4354010というテーマで、地域で繁盛店になるために重要な7つのポイント
①ロマンがある
②強い独自商品がある
③ワクワクする場所である
④地域に貢献している
⑤従業員を愛している
⑥あえて非効率を選んでいる
⑦お客様とつながっている
について説明してきました。
今回のケーススタディは、「おいしい餃子で人々を健康で幸せにしたい」という大きなロマンのもと、埼玉県を中心に101店舗展開する老舗餃子チェーン店が「ぎょうざの満州」です。埼玉が誇るソウルフードは、いまや埼玉県民はもちろん県外のファンも獲得して成長を続けています。
同社は、1964年に現会長の金子梅吉氏が創業。1998年からは娘さんの池野谷ひろみ氏が代表取締役をつとめ、女性ならではの感性や包容力を武器に躍進してきました。
現在は、埼玉県内49、東京西部35、神奈川1、群馬5、大阪9、兵庫2の合計101店舗を運営しており、埼玉県以外にもファンを増やし続けています。
今回は、「ぎょうざの満州」をケーススタディにして、地域の繁盛店になるためのポイントをみていきましょう。
●ロマンがある。
ぎょうざの満州の基本理念は「体に優しい食事を提供する」ことです。地域の人々の健康を考え、毎日食べてもスープを飲み干しても健康なものを提供したいという考えのもと、他店にはない付加価値の高いメニュー開発に取り組んできました。
またメニューだけでなく、働く従業員の健康も第一に考えた経営を重視しています。そのため、離職率が低く、夫婦や兄弟、親子3世代で働く従業員もいることが強みです。
そして、創業者から続くポリシーが「3割うまい」です。これは、売上の3割は必ず原材料費に充てるという考え方。売上に対し、3割は原材料費、3割は人件費、3割は光熱費、残りの1割を利益目標に。たとえスケールメリットで原材料費が下がっても野菜や肉の質を上げて必ず原材料費を3割にし、美味しいものを提供する姿勢を守り抜いてきたのです。
●強い独自商品がある。
同社の売上トップ3は、焼き餃子、チャーハン、ラーメンです。特に焼き餃子は一度食べるとリピートしてしまう看板商品(6個250円税込)として、同社の成長をけん引してきました。
創業者の金子氏は、餃子を包むことが苦手だったため早々に機械を導入。その結果、一日の生産量が大幅にアップし、安くておいしい餃子を提供することに成功。多くのお客様を創造する原動力になりました。
現在は埼玉県の川越工場、坂戸工場、大阪江坂のセントラルキッチンで製造し、自社配送便で各店に届けています。餃子は製造したその日が賞味期限のため、出店場所も工場から1時間以内で配送できるところにこだわってきました。
作り立ての生餃子を注文を受けてから焼いて提供することで、もちもちした食感が損なわれず、多くの食通を唸らせています。
池野谷氏が社長就任後は、工場から車で10分程度の場所でキャベツ畑を自家栽培。夏以外の季節は東京ドーム2個分の広大な自社農場で栽培したとれたてのキャベツを使用することで、餃子の美味しさにより一層磨きをかけてきました。
また2018年からは豚肉の脂身を3割減らし、代わりに赤味を3割増やした餡を採用。お客様アンケートからは、『さっぱりしているので、何個でも食べられる』『今まで6個だったのが、12個食べてしまった』という声が聞かれ、さらに多くのリピーターを増やすことにつながりました。
その後も健康を軸にして、次々にメニューを進化させることに取り組んでいます。例えば、ラーメンのスープは、油分の多い豚骨や豚足を使うのをやめ、鶏がら、カツオ、野菜を圧力なべで煮込んでつくる方法に改善。チャーハンは、コクを出すために使っていたラードを植物性油に変更、さらにお米には玄米を半分使うことで、香ばしさや味の濃さを出すことに成功。その結果醤油や塩の量を減らすことにもつながりました。また、餃子定食のごはんにも玄米を取り入れることで、健康を気にするお客様から共感を得ています。
ぎょうざの満州の美味しさと健康を同時に追求する姿勢は、独自の商品力に磨きをかけてきました。健康志向が高まる中、「おいしい餃子で人々を健康で幸せにする」という理念に共感するお客様は今後も増え続けていくに違いありません。
●従業員を愛している。
ぎょうざの満州では、メニューだけでなく、働く従業員の健康も第一に考えた経営に取り組んでいます。セントラルキッチンでは餃子の自動製造機を導入して従業員の重労働を減らし、時間を要するスープもセントラルキッチンでの製造に切り替えることで早朝の仕込みから解放。従業員の心と体の負担を軽くしています。
また、営業時間は朝の11時から21時、21時30分と他の飲食店よりも夜の営業を短くすることで、1日8時間勤務、週休2日制を実現しています。
夜の営業を短くしている背景には、健康面はもちろん、できるだけ早く帰って家族と過ごす時間を少しでも多くしてあげたいという、女性社長ならではの思いやりの気持ちがあります。
●システム化に取り組んでいる。
ぎょうざの満州成長の裏には、早くからシステム化に取り組んできた池野谷社長の手腕が隠れています。同社長は、短大を卒業後4年間OLとして食品を扱う商社に勤務したのち、お父さんが経営するぎょうざの満州に入社しました。
前職では、システムの運用を支える仕事をしており、入社後はその経験やスキルを活かして、表計算ソフトや経理ソフトを導入。手書きレシピもグラム単位でマニュアル化するなど、一つ一つをシステム化することで生産性を向上させていきます。
さらにPOSレジシステムも率先して導入。その日売れた分と過去の傾向から各店舗で翌日に使う分量を割り出して配送することで、食品廃棄率も劇的に改善。今では自動発注システムを導入しています。
テークアウトもいち早く実施しており、現在は店頭に大型の冷凍冷蔵庫を設置。スーパーやコンビニのように手軽に買えるようになっています。
2016年には、各席にタブレット端末を設置。お客様がタッチパネルでメニューを選ぶセミオーダーシステムを取り入れました。今では座席に貼られたQRコードをスマホで読み込むと、画面上でオーダーできるモバイルオーダーシステムを導入した店舗もあります。
このコロナ禍の中でも、店員と非接触でオーダーできることやテイクアウトなど、時代の先を読む経営がリスクの軽減につながり、安定した経営を実現。
ぎょうざの満州は、「おいしい餃子で人々を健康で幸せにする」ことで地域社会に貢献してきました。今後も地域に根差していくことで、多くのお客様から愛される地域一番店としてさらな、さらなる成長を続けていってほしいと思います。
みなさんこんにちは、和田康彦です。
先日ヤフーは、全ての社員が全国どこでも自由に居住できる新たな働き方を4月に導入すると発表しました。在宅勤務の定着を踏まえて条件を緩和し、航空機での出社も認めるそうです。
ヤフーに限らず、コロナ禍の下ではテレワークが進み都心から郊外への移住も増えています。また通勤頻度が減ることで、住んでいる地元が生活圏の中心になっている人も多くみられます。
都心から地元へという流れが加速するアフターコロナ時代、重要になるのはマスマーケティングよりも「土着化」、つまり地域に密着したマーケティングです。
今回は、地元民に愛され、地域の繁盛店になるために重要なポイントを、地域ダントツナンバーワンとして全国からも熱い注目を集めている、函館のハンバーガーショップ「ラッキーピエロ」をケーススタディとしてみていきたいと思います。
① ロマンがある。
「ラッキーピエロ」は、北海道函館市を中心とする道南エリアに17店舗展開するハンバーガー店です。「ぴったんこカンカン」や「がっちりマンディ」「WBSワールドビジネスサテライト」「カンブリア宮殿」等でもそのユニークな経営スタイルが紹介されてきたのでご存じの方も多いかもしれません。
1987年に創業したラッキーピエログループ会長の王一郎氏は、小さい頃サーカスが大好きだったので、ワクワクドキドキするサーカスのようなお店を作りたいと考えていました。そこでサーカスの中で主役ではないけれど大事なキャラクターである「ピエロ」を店名の候補に。ただピエロには物悲しいイメージもあるので、「ラッキー」を付け足し「ラッキーピエロ(幸運なピエロ)」にしたそうです。
最初はホットドック店を想定していたのですが、ホットドックは細長いので特長が出しづらく断念。知り合いにハンバーガーはどうかと勧められたことがきっかけでハンバーガーへの挑戦が始まりました。ただハンバーガーはアメリカが発祥。そこで、日本人向けのハンバーガーショップをつくれば他店とは違う特徴を出しやすいと考え、日本人が喜ぶハンバーガーはどうあるべきかを求めて世界中を食べ歩きして研究をしました。
「お客様は飢え死にするから食べに来ているのではなくて、私どものお店が美味しくて楽しいから来ていただけるのだと思っています。だから、帰る時にはもっと幸せになって欲しい、そういうイメージで仕事をしています。」と語る王会長。
ラッキーピエロは、異体験で驚かす!1つとして同じものがない!お客様と密着する!超個性的な店づくりでわが道を独走するをモットーに「超お客様満足第一主義」を実践することで躍進してきました。その成功の源となったのが、創業者王一郎氏の「食を通してお客様を幸せにしたい」という大いなるロマンです。
② 強い独自商品がある。
大手を蹴散らすほどの魅力を持った、その店でしか買えない人気商品があれば、地域の内外からお客様を呼び込むことができます。
ラッキーピエロの不動の一番商品は、ファンから「チャイチキ」の愛称で呼ばれている「チャイニーズチキンバーガー」です。
創業者の王氏が中華料理店での経験を活かして、中華の美味しさを取り入れたメニューを商品にしようと思い立ったことから開発をスタート。甘辛いタレを絡めた鶏から揚げとレタス、マヨネーズなどを挟んだ、中華の技法を取り入れた中華味のハンバーガーです。
ラッキーピエロでは、他のファストフードチェーンとは異なり、各店のカリナリー(台所)が食材のチルド管理から調理方法までを受け持っています。
食材も、その土地の物を使うために直接養豚場から仕入れたり、醤油は丸大豆100%遺伝子組換え無し、防腐剤も入っていない、高級な醤油を使っったりと、高級レストランにも負けないこだわりの素材にこだわっています。
もちろん作り立ての美味しさを提供するために作り置きは一切せず、オーダーの来た分しか作りません。その一方で、お母さん達が自分の家族に食べさせるような愛情あふれる商品をたくさんの人に楽しんでもらいたいという思いから、原価率は飲食業界では通常ありえない50%以上で設定。チャイニーズチキンバーガーは、価格を大きく上回る価値を提供することで、多くのお客様から愛され、ラッキーピエロの成長をけん引してきました。
③ ワクワクする場所である。
地元のお客様から愛されるためには、老若男女が安心して集まることができる場所で、ワクワクドキドキするエンタテインメント性を持っていることが重要です。
ラッキーピエロが運営する17店舗は、一店一店が独自のテーマコンセプトで設計や店づくりが行われています。
例えば2012年9月にオープンした峠下総本店は、「バードウォッチング」がテーマ。JR新函館北斗駅近くの3000坪の敷地にはログハウス風の店舗が建っていて、王会長がイギリス留学時代に買い集めた鳥の額絵200枚をはじめ、様々な種類の鳥のモチーフが店内のあちこちにあります。
店内には巨大な赤い椅子やキリンのぬいぐるみなど独自のオブジェが所狭しと並べられ、まるでテーマパークのような雰囲気です。
さらに広大な庭には「天使のメリーゴーランド」と名付けた本物のメリーゴーランドが設置されていたり、夜には36万球のイルミネーションが輝くなど、お客様を驚かせる工夫が満載です。
その他「サンタが函館にやってきた」をテーマにした十字街銀座店では、5000ものサンタクロースが出迎えてくれたり、「プレスリーが青春だった」をテーマにした港北大前店では、壁一面がプレスリーのポートレートで飾られ、1950年代のアメリカを味わうことができます。
17店、それぞれのテーマや店づくりが異なることで、「次はあそこの店へ行ってみよう」というお客様が増え、グループ全体での集客力を高めることにもつながっています。
④ 地域に貢献している。
地域のお客様から愛されるためには、地域の活性化に貢献し、地域の課題にも率先して取り組むことで地域と一緒に成長していくことが大切です。
ラッキーピエロでは、肉や野菜などはなるべく道南産や北海道産のものを使い、それでも手に入らないものがあれば他の地域のものを使うという「地産地食」を徹底しています。
また、観光地としての函館を宣伝・応援するために、ハンバーガーの包装紙や店内のチラシなどで函館の観光情報をアピール。
さらに、函館土産として、食品やグッズなど「ラッキーピエロ」アイテムを100種類以上展開。店舗での販売以外にも全国の百貨店やスーパーの催事でも取り扱ってもらうことで函館の知名度アップに貢献しています。
さらにゴミを出さないことにも取り組んでおり、お店のほとんどの紙は再生紙を使用。毎月1日は2時間位広範囲清掃したり、函館の海や五稜郭公園の周りを清掃したり。今ではお客様にも参加していただいて地域のボランティア活動に積極的に取り組み、運命共同体である地域の人々とお互いに支えあうことを大切にしています。
⑤ 従業員を愛する
人材不足が進む中、経営資源としての「人」の重要性はますます高まってきました。企業で働く従業員の幸せや生きがいを共創することは、生産性を向上させるばかりでなく、地域の人を大切にすることにもつながります。
ラッキーピエロでは、日々経営者の会長、社長がスタッフと積極的にコミュニケーションをとることに取り組んでいます。
例えば、毎月バースデーサミットと呼ばれる、誕生月の社員やスタッフを集めた食事会を開催。バースデーサミットが面白いのは、ただの食事会ではなく、毎回テーマを決めておいて、そのテーマに沿ってみんなで語り合うことです。
「お父さんの話」「お母さんの話」「こどもの自慢」「故郷について」「最後の晩餐に何を食べたいか」・・・・・身近な体験を語ることでお互いをよく知ることができ、情報の共有が生まれます。同じ月に生まれたことをきっかけに、別の店舗に勤めるスタッフとも顔なじみになれることも従業員にとっては安心感につながります。
会長や社長は聞き役に徹し、スタッフの家族や子供たちを含めた関心事に耳を傾けるようにしているそうです。その結果、スタッフとの心の絆を保ち続け、ともに共通の未来を見ることができるといいます。バースデーサミットは経営者と従業員にとって大切なコミュニケーションツールであり、ラッキーピエロの発展を支えてきた仕組みづくりといえます。
⑥ あえて非効率を選んでいる
大量生産大量消費の時代は、ひたすらコストカットや効率を重視して突き進んできました。しかしながら成熟時代に入ったいま、一見非効率に見えるような無駄や余白が実は魅力や愛を生み出すきっかけになっています。
ラッキーピエロは、全国展開するチェーン店とは真逆の戦略で、たくさんの地元ファンを生み出してきました。
先にみてきたように、17店舗は1店舗1店舗すべて異なるテーマコンセプトで店づくりしてきました。店舗の外観はもちろん、テーブルやソファ、オブジェまで、その店独自の個性を出すことにこだわっています。
また、当初は8種類のハンバーガーだけだったメニューも、今ではカレーライス、ハンバーグ、オムライス、ソース焼きそば、かつ丼など150種類以上も取り揃えています。
一見非効率に見えますが、結果的に老若男女の誰もが好きなものを食べられる店になり、3世代での来店やリピート客を生み出すことにもつながっています。
店舗ごとに異なるテーマで店づくりすることで、「次はあそこの店に行きたい」というお客様の行動を促し、グループ全体での集客力を高めています。
地域で一番になるためには、圧倒的な資本力を持つ大手チェーンとは全く別の戦略が重要です。コストや効率ばかりを重視しない知恵やアイデア、愛がお客様の心を引き付けるのです。
⑦ お客様とつながっている。
少子高齢化が進み人口が減少する中、新規のお客様を増やしていくことは年々難しくなってきました。これからの時代は、一人のお客様と深く長くお付き合いしていくことが繁盛店になるためのポイントです。
ラッキーピエロは創業当初、バイク族の若者がその人気に火をつけたといいます。ツーリングで出会ったラッキーピエロの美味しさを、泊まった宿の「思い出ノート」に書き込んでくれたことがきっかけになり、バイク族の間でたちまち話題になりました。
また、函館出身のロックバンドグループ「GLAY」が番組内で紹介したことが発端となり、その後ラッキーピエロのユニークな店舗づくりやメニュー開発がマスコミでも取り上げられることになります。
このようにラッキーピエロは、口コミを通してお客様に宣伝してもらうことで大きく飛躍してきました。
お客様と深く長くお付き合いしていくための秘訣は、お客様の声に耳を傾けてお客様と一緒に共創していくことです。
ラッキーピエロでは、毎日100枚~150枚集まるお店にあるアンケート結果をすべて経営者自ら目を通し、お客様のアドバイスを明日の経営に生かすことに地道に取り組んでいます。
また、「マイバーガーアイデアコンテスト」や「マイカレーアイデアコンテスト」などお客様の声を反映したメニュー開発にも積極的に取り組むことで、お客様を巻き込んだメニューの進化を目指しています。
さらに、地元のお客様とのつながりを深めていく仕組みとして「サーカス団員制度」を取り入れています。
基本的にはメール会員制度ですが、ラッキーピエロへの貢献度によってお客様をランク付けするというもの。
トップの「スーパースター団員」になると、新年会や新作メニュー試食会に招待されるなどラッキーピエロとの身内のようなお付き合いが待っています。
スーパースター団員は全顧客の1割ほどですが、売上の大半を支えてくれる熱狂的なファンの集まりです。お客様と継続的に深くつながっていくことは、これからの時代の最重要経営テーマです。
以上、函館で17店舗展開し、地域一番店としてたくさんのお客様に愛されているラッキーピエロの成功をケーススタディに地域の繁盛店になるために重要な7つのポイントをみてきました。
7つのポイントを改めておさらいしておきましょう。
① ロマンがある
② 強い独自商品がある
③ ワクワクする場所である
④ 地域に貢献している
⑤ 従業員を愛している
⑥ あえて非効率を選んでいる
⑦ お客様とつながっている
あなたのお店や会社でも、この7つのポイントに磨きをかけて進化させて行けば、必ず地域の繁盛店になります。
さあ今日からでも、ラッキーピエロさんから学んだことを活かして、一歩前進していきましょう。

みなさんこんにちは、和田康彦です。
企業の成長に直結するイノベーションには、専門分野で力を発揮する人材や研究開発が欠かせません。特に、データをより高度に分析し、サービス品質を飛躍的に高めるためには、人工知能(AI)などの駆使が必要になります。
しかしながら、雇用の流動性の低い日本では、デジタルの知見を持った人材はIT(情報通信)企業などに偏っており、先端ITに精通した人材は争奪戦となっているのが現状です。
2021年の情報通信白書でも、国内企業の53%がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める課題として「人材不足」を挙げています。
そんな中、ユニクロを展開するファーストリテイリング社は、中途採用の年収を2022年から最大10億円に引き上げることを発表しました。
柳井正会長兼社長の年収4億円を大きく上回り、日本企業の中途採用の平均年収のなんと200倍。日本の最高経営責任者(CEO)の報酬総額の平均が約1億2000万円ですから、こちらと比べても8倍強となります。
衣料品業界はいま、米アマゾン・ドット・コムなどIT大手との競争が激しくなっています。ファーストリテイリング社は世界からデジタル人材を集めて衣料品の製造・販売が中心の収益構造を変えて、新たな事業モデルを構築したい考えです。
特に、デジタル化や電子商取引(EC)、サプライチェーンに精通した人材を求めていて、柳井氏は「自分より優秀で天才的な人が対象。いい人材がいれば100人でも200人でも採用したい」と言っています。
このところ、米グーグルもネット通販大手と組んでEC分野を強化するなど、異業種がアパレルの産業構造を変えようとしています。経営環境が変わる中、ファーストリテイリング社の将来の競合は「ZARA」や「H&M」などのアパレルではなく、GAFA(グーグル、米アップル、米旧フェイスブック(現メタ)、アマゾン)になっていくと予測しているようです。
新型コロナウィルス下で社会のデジタルトランスフォーメーションが進む中、ファーストリテイリング社にとっても、経営資源の最重要項目である「人」への投資は待ったなしの状況です。
世界中から新たな価値を生んだり、事業を白紙から考えられる人材をいかに確保するか、ファーストリテイリング社の未来は、優秀な人材をいかに確保するかにかかっているといえます。
企業は、ヒト、モノ、カネ、情報、時間、知的財産という6つの経営資源をフル活用することで、自社の強み(優位性)を確立し、市場での強み(優位性)を高めていくことが重要です。
6つの経営資源の中でも、何よりも大切なのが「人」です。デジタル化がどんなに進んでも、すべてのプロジェクトは人が動かしています。人の力により仕事が生まれ、人の力により仕事が収められていきます。
人的資源の不足が懸念される日本企業にとって、人材の確保は大きな課題となっています。中小企業にとっても優秀な人材の確保と育成は大きな課題です。
しかしながら、ファーストリテイリング社のように年収10億円なんてどう考えても絵空事です。では、どうすれば優秀な人材が定着して力を発揮してくれるのでしょうか。
その答えはずばり「共感」です。社長の熱い思いや会社がなぜ存在するのかというパーパスを明確にし、社員といつも共有して、同じ目的地に向かって進む。社員全員が社長の熱い経営情熱に共感する経営こそが、中小企業が優秀な人材を育てて、会社を成長に導く大きなエネルギーになります。