体験消費時代のマーケティングヒント

2022-01-19 12:09:00

みなさんこんにちは、和田康彦です。

 

先日ヤフーは、全ての社員が全国どこでも自由に居住できる新たな働き方を4月に導入すると発表しました。在宅勤務の定着を踏まえて条件を緩和し、航空機での出社も認めるそうです。

 

ヤフーに限らず、コロナ禍の下ではテレワークが進み都心から郊外への移住も増えています。また通勤頻度が減ることで、住んでいる地元が生活圏の中心になっている人も多くみられます。

 

都心から地元へという流れが加速するアフターコロナ時代、重要になるのはマスマーケティングよりも「土着化」、つまり地域に密着したマーケティングです。

 

今回は、地元民に愛され、地域の繁盛店になるために重要なポイントを、地域ダントツナンバーワンとして全国からも熱い注目を集めている、函館のハンバーガーショップ「ラッキーピエロ」をケーススタディとしてみていきたいと思います。

 

    ロマンがある。

「ラッキーピエロ」は、北海道函館市を中心とする道南エリアに17店舗展開するハンバーガー店です。「ぴったんこカンカン」や「がっちりマンディ」「WBSワールドビジネスサテライト」「カンブリア宮殿」等でもそのユニークな経営スタイルが紹介されてきたのでご存じの方も多いかもしれません。

 

1987年に創業したラッキーピエログループ会長の王一郎氏は、小さい頃サーカスが大好きだったので、ワクワクドキドキするサーカスのようなお店を作りたいと考えていました。そこでサーカスの中で主役ではないけれど大事なキャラクターである「ピエロ」を店名の候補に。ただピエロには物悲しいイメージもあるので、「ラッキー」を付け足し「ラッキーピエロ(幸運なピエロ)」にしたそうです。

 

最初はホットドック店を想定していたのですが、ホットドックは細長いので特長が出しづらく断念。知り合いにハンバーガーはどうかと勧められたことがきっかけでハンバーガーへの挑戦が始まりました。ただハンバーガーはアメリカが発祥。そこで、日本人向けのハンバーガーショップをつくれば他店とは違う特徴を出しやすいと考え、日本人が喜ぶハンバーガーはどうあるべきかを求めて世界中を食べ歩きして研究をしました。

 

「お客様は飢え死にするから食べに来ているのではなくて、私どものお店が美味しくて楽しいから来ていただけるのだと思っています。だから、帰る時にはもっと幸せになって欲しい、そういうイメージで仕事をしています。」と語る王会長。

 

ラッキーピエロは、異体験で驚かす!1つとして同じものがない!お客様と密着する!超個性的な店づくりでわが道を独走するをモットーに「超お客様満足第一主義」を実践することで躍進してきました。その成功の源となったのが、創業者王一郎氏の「食を通してお客様を幸せにしたい」という大いなるロマンです。

 

    強い独自商品がある。

大手を蹴散らすほどの魅力を持った、その店でしか買えない人気商品があれば、地域の内外からお客様を呼び込むことができます。

 

ラッキーピエロの不動の一番商品は、ファンから「チャイチキ」の愛称で呼ばれている「チャイニーズチキンバーガー」です。

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創業者の王氏が中華料理店での経験を活かして、中華の美味しさを取り入れたメニューを商品にしようと思い立ったことから開発をスタート。甘辛いタレを絡めた鶏から揚げとレタス、マヨネーズなどを挟んだ、中華の技法を取り入れた中華味のハンバーガーです。

 

ラッキーピエロでは、他のファストフードチェーンとは異なり、各店のカリナリー(台所)が食材のチルド管理から調理方法までを受け持っています。

 

食材も、その土地の物を使うために直接養豚場から仕入れたり、醤油は丸大豆100%遺伝子組換え無し、防腐剤も入っていない、高級な醤油を使っったりと、高級レストランにも負けないこだわりの素材にこだわっています。

 

もちろん作り立ての美味しさを提供するために作り置きは一切せず、オーダーの来た分しか作りません。その一方で、お母さん達が自分の家族に食べさせるような愛情あふれる商品をたくさんの人に楽しんでもらいたいという思いから、原価率は飲食業界では通常ありえない50%以上で設定。チャイニーズチキンバーガーは、価格を大きく上回る価値を提供することで、多くのお客様から愛され、ラッキーピエロの成長をけん引してきました。

 

    ワクワクする場所である。

地元のお客様から愛されるためには、老若男女が安心して集まることができる場所で、ワクワクドキドキするエンタテインメント性を持っていることが重要です。

 

ラッキーピエロが運営する17店舗は、一店一店が独自のテーマコンセプトで設計や店づくりが行われています。

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例えば20129月にオープンした峠下総本店は、「バードウォッチング」がテーマ。JR新函館北斗駅近くの3000坪の敷地にはログハウス風の店舗が建っていて、王会長がイギリス留学時代に買い集めた鳥の額絵200枚をはじめ、様々な種類の鳥のモチーフが店内のあちこちにあります。

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店内には巨大な赤い椅子やキリンのぬいぐるみなど独自のオブジェが所狭しと並べられ、まるでテーマパークのような雰囲気です。

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さらに広大な庭には「天使のメリーゴーランド」と名付けた本物のメリーゴーランドが設置されていたり、夜には36万球のイルミネーションが輝くなど、お客様を驚かせる工夫が満載です。

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その他「サンタが函館にやってきた」をテーマにした十字街銀座店では、5000ものサンタクロースが出迎えてくれたり、「プレスリーが青春だった」をテーマにした港北大前店では、壁一面がプレスリーのポートレートで飾られ、1950年代のアメリカを味わうことができます。

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17店、それぞれのテーマや店づくりが異なることで、「次はあそこの店へ行ってみよう」というお客様が増え、グループ全体での集客力を高めることにもつながっています。

 

    地域に貢献している。

地域のお客様から愛されるためには、地域の活性化に貢献し、地域の課題にも率先して取り組むことで地域と一緒に成長していくことが大切です。

 

ラッキーピエロでは、肉や野菜などはなるべく道南産や北海道産のものを使い、それでも手に入らないものがあれば他の地域のものを使うという「地産地食」を徹底しています。

 

また、観光地としての函館を宣伝・応援するために、ハンバーガーの包装紙や店内のチラシなどで函館の観光情報をアピール

 

さらに、函館土産として、食品やグッズなど「ラッキーピエロ」アイテムを100種類以上展開。店舗での販売以外にも全国の百貨店やスーパーの催事でも取り扱ってもらうことで函館の知名度アップに貢献しています。

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さらにゴミを出さないことにも取り組んでおり、お店のほとんどの紙は再生紙を使用。毎月1日は2時間位広範囲清掃したり、函館の海や五稜郭公園の周りを清掃したり。今ではお客様にも参加していただいて地域のボランティア活動に積極的に取り組み、運命共同体である地域の人々とお互いに支えあうことを大切にしています。

 

    従業員を愛する

人材不足が進む中、経営資源としての「人」の重要性はますます高まってきました。企業で働く従業員の幸せや生きがいを共創することは、生産性を向上させるばかりでなく、地域の人を大切にすることにもつながります。

 

ラッキーピエロでは、日々経営者の会長、社長がスタッフと積極的にコミュニケーションをとることに取り組んでいます。

 

例えば、毎月バースデーサミットと呼ばれる、誕生月の社員やスタッフを集めた食事会を開催。バースデーサミットが面白いのは、ただの食事会ではなく、毎回テーマを決めておいて、そのテーマに沿ってみんなで語り合うことです。

 

「お父さんの話」「お母さんの話」「こどもの自慢」「故郷について」「最後の晩餐に何を食べたいか」・・・・・身近な体験を語ることでお互いをよく知ることができ、情報の共有が生まれます。同じ月に生まれたことをきっかけに、別の店舗に勤めるスタッフとも顔なじみになれることも従業員にとっては安心感につながります。

 

会長や社長は聞き役に徹し、スタッフの家族や子供たちを含めた関心事に耳を傾けるようにしているそうです。その結果、スタッフとの心の絆を保ち続け、ともに共通の未来を見ることができるといいます。バースデーサミットは経営者と従業員にとって大切なコミュニケーションツールであり、ラッキーピエロの発展を支えてきた仕組みづくりといえます。

 

    あえて非効率を選んでいる

大量生産大量消費の時代は、ひたすらコストカットや効率を重視して突き進んできました。しかしながら成熟時代に入ったいま、一見非効率に見えるような無駄や余白が実は魅力や愛を生み出すきっかけになっています。

 

ラッキーピエロは、全国展開するチェーン店とは真逆の戦略で、たくさんの地元ファンを生み出してきました。

 

先にみてきたように、17店舗は1店舗1店舗すべて異なるテーマコンセプトで店づくりしてきました。店舗の外観はもちろん、テーブルやソファ、オブジェまで、その店独自の個性を出すことにこだわっています。

 

また、当初は8種類のハンバーガーだけだったメニューも、今ではカレーライス、ハンバーグ、オムライス、ソース焼きそば、かつ丼など150種類以上も取り揃えています。

 

一見非効率に見えますが、結果的に老若男女の誰もが好きなものを食べられる店になり、3世代での来店やリピート客を生み出すことにもつながっています。

 

店舗ごとに異なるテーマで店づくりすることで、「次はあそこの店に行きたい」というお客様の行動を促し、グループ全体での集客力を高めています。

 

地域で一番になるためには、圧倒的な資本力を持つ大手チェーンとは全く別の戦略が重要です。コストや効率ばかりを重視しない知恵やアイデア、愛がお客様の心を引き付けるのです。

 

    お客様とつながっている。

少子高齢化が進み人口が減少する中、新規のお客様を増やしていくことは年々難しくなってきました。これからの時代は、一人のお客様と深く長くお付き合いしていくことが繁盛店になるためのポイントです。

 

ラッキーピエロは創業当初、バイク族の若者がその人気に火をつけたといいます。ツーリングで出会ったラッキーピエロの美味しさを、泊まった宿の「思い出ノート」に書き込んでくれたことがきっかけになり、バイク族の間でたちまち話題になりました。

 

また、函館出身のロックバンドグループ「GLAY」が番組内で紹介したことが発端となり、その後ラッキーピエロのユニークな店舗づくりやメニュー開発がマスコミでも取り上げられることになります。

 

このようにラッキーピエロは、口コミを通してお客様に宣伝してもらうことで大きく飛躍してきました。

 

お客様と深く長くお付き合いしていくための秘訣は、お客様の声に耳を傾けてお客様と一緒に共創していくことです。

 

ラッキーピエロでは、毎日100枚~150枚集まるお店にあるアンケート結果をすべて経営者自ら目を通し、お客様のアドバイスを明日の経営に生かすことに地道に取り組んでいます。

 

また、「マイバーガーアイデアコンテスト」や「マイカレーアイデアコンテスト」などお客様の声を反映したメニュー開発にも積極的に取り組むことで、お客様を巻き込んだメニューの進化を目指しています。

 

さらに、地元のお客様とのつながりを深めていく仕組みとして「サーカス団員制度」を取り入れています。

基本的にはメール会員制度ですが、ラッキーピエロへの貢献度によってお客様をランク付けするというもの。

 

トップの「スーパースター団員」になると、新年会や新作メニュー試食会に招待されるなどラッキーピエロとの身内のようなお付き合いが待っています。

 

スーパースター団員は全顧客の1割ほどですが、売上の大半を支えてくれる熱狂的なファンの集まりです。お客様と継続的に深くつながっていくことは、これからの時代の最重要経営テーマです。

 

以上、函館で17店舗展開し、地域一番店としてたくさんのお客様に愛されているラッキーピエロの成功をケーススタディに地域の繁盛店になるために重要な7つのポイントをみてきました。

 

7つのポイントを改めておさらいしておきましょう。

    ロマンがある

    強い独自商品がある

    ワクワクする場所である

    地域に貢献している

    従業員を愛している

    あえて非効率を選んでいる

    お客様とつながっている

 

あなたのお店や会社でも、この7つのポイントに磨きをかけて進化させて行けば、必ず地域の繁盛店になります。

さあ今日からでも、ラッキーピエロさんから学んだことを活かして、一歩前進していきましょう。