体験消費時代のマーケティングヒント

前回は、アマゾンの驚異的な強さの源泉は、愚直なまでの生活者視点の追求にあるというお話しをさせていただきました。http://womanmarketing.net/info/3649421
では、どのように、徹底した生活者視点の追求を実現しているのでしょうか。
その鍵を説くのが、アマゾン流の「リーダーとして行動するための14カ条」にあります。
アマゾンでは、社員1人ひとりがリーダーとみなされており、共通点は顧客中心主義、つまり顧客にフォーカスしていることです。アマゾンにおけるリーダーとは何か、それがこれからご紹介する『リーダーシップ14カ条』に定義されています。
◆アマゾン流「リーダーとして行動するための14カ条」
英語でOUR LEADERSHIP PRINCIPLESと表記されているリーダーシップに関する定義は、創業期から存在していました。そして常に見直されていて現在では14カ条になっています。
以下にその全項目をご紹介しますが、まず最初の項目が、「Customer Obsession」であり、「リーダーはカスタマーを起点に考えて行動します。カスタマーから信頼を獲得し、維持していくために全力を尽くします。リーダーは競合に注意を払いますが、何よりもカスタマーを中心に考えることにこだわります。」
と、顧客基点で考えて行動することが謳われている点は、さすがアマゾンですね。
◆Our Leadership Principles
リーダーとして行動するための14カ条
●Customer Obsession
リーダーはカスタマーを起点に考えて行動します。カスタマーから信頼を獲得し、維持していくために全力を尽くします。リーダーは競合に注意を払いますが、何よりもカスタマーを中心に考えることにこだわります。
●Ownership
リーダーにはオーナーシップが必要です。リーダーは長期的な視野で考え、短期的な結果のために、長期的な価値を犠牲にしません。リーダーは自分のチームだけでなく、会社全体のために行動します。リーダーは「それは私の仕事ではありません」とは決して口にしません。
●Invent and Simplify
リーダーはチームにイノベーション(革新)とインベンション(創造)を求め、常にシンプルな方法を模索します。リーダーは状況の変化に注意を払い、あらゆるところから新しいアイデアを探し出します。それは、自分たちが生み出したものだけには限りません。私たちは新しいアイデアを実行する上で、長期間にわたり外部に誤解されうることも受け入れます。
●Are Right, A Lot
リーダーは多くの場合正しい判断を行います。強い判断力を持ち、経験に裏打ちされた直感を備えています。リーダーは多様な考え方を追求し、自らの考えを反証することもいといません。
●Learn and Be Curious
リーダーは常に学び、自分自身を向上させ続けます。新たな可能性に好奇心を持ち実際に追求します。
●Hire and Develop The Best
リーダーはすべての採用や昇進において、パフォーマンスの基準を引き上げます。優れた才能を持つ人材を見極め、組織全体のために進んで人材を活用します。リーダーはリーダーを育成し、コーチングに真剣に取り組みます。私たちはすべてのメンバーのために新しい成長のメカニズム(例:Career Choice)を創り出します。
●Insist on the Highest Standards
リーダーは常に高い水準を追求します。この水準は高すぎると感じられるかもしれません。リーダーは継続的に求める水準を引き上げていき、チームがより品質の高い商品やサービス、プロセスを実現できるように推進します。リーダーは不良を下流に流さず、問題を確実に解決し、再び同じ問題が起きないように改善策を講じます。
●Think Big
狭い視野で考えてしまうと、大きな結果を得ることはできません。リーダーは大胆な方針と方向性をつくり、示すことによって成果を導きます。リーダーはお客様に貢献するために従来と異なる新たな視点をもち、あらゆる可能性を模索します。
●Bias for Action
ビジネスではスピードが重要です。多くの意思決定や行動はやり直すこともできるため、大がかりな分析や検討を必要としません。計算されたリスクをとることも大切です。
●Frugality
私たちはより少ないリソースでより多くのことを実現します。倹約の精神は創意工夫、自立心、発明を育む源になります。スタッフの人数、予算、固定費は多ければよいというものではありません。
●Earn Trust
リーダーは、注意深く耳を傾け、率直に話し、人に対して敬意をもって接します。たとえ気まずい思いをする事があったとしても間違いは素直に認め、自分やチームの間違いを正しいと言ったりしません。リーダーは常に自分たちを最高水準と比較、評価します。
●Dive Deep
リーダーは常に各業務に気を配り詳細も認識します。頻繁に現状を確認し、メトリクスと個別の事例が合致していない時には疑問を呈します。リーダーが関わるに値しない業務はありません。
●Have Backbone; Disagree and Commit
リーダーは、賛成できない場合には、敬意をもって異議を唱えなければなりません。たとえそうすることが面倒で労力を要することであっても例外ではありません。リーダーは、信念をもち、容易にあきらめません。安易に妥協して馴れ合うことはしません。しかし、いざ決定がなされたら、全面的にコミットして取り組みます。
●Deliver Results
リーダーは、ビジネス上の重要なインプットにフォーカスし、適正な品質で迅速にそれを実行します。たとえ困難なことがあっても、立ち向かい、決して妥協しません。
あなたの会社でも、この14か条を参考に、リーダーシップのとれる人材を育てていきましょう。人財こそ、貴重な経営資源になります。

みなさんこんにちは。和田康彦です。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に伴う巣ごもり消費により、アマゾンの業績は大幅に伸びていています。2020年7~9月期の純利益は前年同期比200%増の63億㌦を達成。これにより、アマゾンが新たな業界の攻撃に費やせる資金はさらに増えています。今回は、アマゾン大躍進を支えている強さの源泉についてみていきます。
◆次々に既存業界を破壊するアマゾン
2000年代には、アマゾンによる電子商取引(EC)の支配は書籍や音楽、玩具、スポーツ用品など小売りの幅広い分野を破壊しました。米玩具販売大手のトイザラスや米スポーツ用品店のスポーツオーソリティ、米書店チェーンのバーンズ・アンド・ノーブルなど1世紀以上にわたって繁栄してきた大規模小売店もありましたが、アマゾンの並外れて速い配達と低価格には太刀打ちできませんでした。
アマゾンの破壊の野望は今や、小売りをはるかに超えて広がっています。複雑なサプライチェーン(供給網)物流の専門知識とデータ収集での競争力を武器に、新たな業界に次々と攻撃を仕掛けています。
同社は実店舗を展開する食品スーパーを買収し、地域の配達を簡素化するために、野菜や果物の熟度を自動選別する機能を搭載した生産ラインなどテクノロジーを駆使しています。
また2018年6月にはオンライン薬局のピルパック(PillPack)を買収。最近発表した新サービス「アマゾン薬局」により、全米で薬局の免許を取得し、流通網を築こうとしています。
個人や外部の販売業者が出品できる「アマゾンマーケットプレイス」では、売り上げや予測などのデータを活用し、出店者に銀行よりも有利な金利でリスクを排した融資を提供しています。
今後は、薬局をはじめ、中小企業向け融資、物流、生鮮食品、決済などの業界もアマゾンエフェクトは避けられそうにありません。
●「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」を愚直に追求するアマゾン
ところで、次々にイノベーションを起こして新たな価値を生み出すアマゾンの強さの源泉はどこにあるのでしょうか。
カギとなるのは、使命感や志(パーパス)です。MTP(Massive Transformative Purpose、野心的な変革目標)と言われるような高い目標を描き、それを共有できると10倍速の成長や大きな変革が進みやすくなると言われています。
アマゾンでは、創業時に掲げた「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」というミッションを一番大事にしており、それが組織全体に浸透しています。
アマゾンがイノベーションにチャレンジするときは、自分たちがやりたいことをやるのではなく、お客様のどのような課題を解決できるのかということにこだわります。たとえば、世界シェア45%を占めるAWSであれば、クラウドコンピューティングによってお客様の経営課題をどう解決するのか、そこが出発点になっています。
そして、新しい製品やサービスを開発する際には、「Working Backwards」というアプローチを取っています。まずは、お客様の視点に立って、お客様の課題は何かを徹底して考えます。そこを起点にお客様にとって必要なものは何か、どうすればそれを提供できるかを逆算して考えるわけです。
みんなで議論して、できるだけ多くのアイデアを出し、「これでいこう」と決めたら、プレスリリースを書き上げます。開発をスタートする前に、その製品・サービスがなぜ必要なのか、お客様にどのような価値をもたらし、顧客体験をどう変えるのかを数ページのドキュメントにまとめるのです。
口で言うのは簡単なのですが、新しい製品・サービスの顧客価値をシンプルに定義し、明文化するのは結構大変です。このプレスリリースをもとに議論を進め、ゴーサインが出たらプロジェクトがスタートします。
ゴーサインを出すかどうかの判断基準は、お客様のためになるかどうかです。どの企業でもそうだと思いますが、いざプロジェクトを始めると、社内で反対する人が出てくることや、方針が変わって予算を減らされそうになることがありますよね。でも、プレスリリースは組織として承認されたものですから、初志を貫徹することができます。
●少人数のプロジェクトに全権委任
また、アマゾンでは「Two Pizza Team」と呼んでいるそうですが、新しいプロジェクトを始めるときには2枚のピザでお腹を満たせる程度の人数、具体的には8〜10人程度でスタートし、そのチームに全権を与えます。
チームには全権が与えられているので、関係部署といちいち調整をする必要はありません。新しいサービスを始めようとすると、「それはうちの事業と競合するからだめだ」といった反対が出ることがありますが、全権委任されたチームにはそうした横やりが入る余地がありません。社内調整より、お客様にいち早く価値を届けることを優先した、イノベーションが育ちやすい組織づくりを目指しているのです。
一方で規律については、トップから現場まで意思決定はお客様との対話が主軸になっています。「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」というミッションを果たすために、トップから現場まで愚直にお客様の声を聞きます。お客様がアマゾンのサービスをどう思っているのか、何に満足し、何に不満を抱いているのか。そういう声を徹底して集めます。
経営陣に何か提案を上げるときには、お客様の声が求められます。現場から幹部に提案を上げるときも同じです。お客様の声を常に聞いていないと、何事も先に進まない仕組みです。お客様との対話を通じ、お客様のリクエストに対しても問題提起して、さらに課題を深掘りし、本質は何かを探究するプロセスなのです。
このように、アマゾンは、顧客の課題の本質を探究しながら、顧客と相互学習している。その学習効果がイノベーションを生み出しているとも言えます。
愚直なまでに徹底した生活者視点の追求こそ、アマゾンの強さの源泉なのです。