体験消費時代のマーケティングヒント
みなさんこんにちは、和田康彦です。
これまでのコラムでは、函館の人気ハンバーガー店「ラッキーピエロ」に学ぶ、地域の繁盛店になるための7つのポイント。http://womanmarketing.net/info/4354010や埼玉の人気餃子店「ぎょうざの満州」に学ぶ、地域の繁盛店になるために大切なこと。http://womanmarketing.net/info/4356296というテーマで、アフターコロナ時代に、地域で繁盛店になるために重要な7つのポイント
①ロマンがある
②強い独自商品がある
③ワクワクする場所である
④地域に貢献している
⑤従業員を愛している
⑥あえて非効率を選んでいる
⑦お客様とつながっている
について説明してきました。
今回は、茨城県を中心に北関東で和食ファミリーレストラン「ばんどう太郎」など80店以上の多様な飲食店や食肉卸、マルシェの経営なども手掛ける食のインフラ企業「株式会社坂東太郎」をケーススタディに取り上げたいと思います。
●食のインフラ企業として、地域に密着しながら事業を展開
株式会社坂東太郎は、茨城、埼玉、栃木、群馬、千葉県で和食ファミリーレストラン「ばんどう太郎」やとんかつ専門店「かつ太郎」、かに中心の和食ファミリーダイニング「八幡太郎」、カフェ・コーヒー「8代葵カフェ」など80店舗以上を展開するほか、農業や食肉卸、マルシェの経営も手掛ける食のインフラ企業です。
2020年12月期の売上は76億円。経営の安定性を示す自己資本比率や経常利益率も業界平均を上回る実績を誇ります。
社名の「坂東太郎」は、日本三大河川、利根川の別称から命名。創業者は農家の長男だった青谷洋治氏(現会長)。青谷氏は高校進学前に母を亡くし進学を断念。農業に専念する傍ら、農作業後にそば屋でアルバイトを始め、1975年にのれん分けで社長となり開業しました。
その後、地域密着型の和風レストラン、とんかつ専門店、ステーキハウス、全室個室・お庭のあるレストランなど業態を広げ事業を拡大してきました。
坂東太郎がこだわるのは、大手チェーンとは異なる「親子孫」3世代が集える場の提供です。お食い初め、一升餅、七五三、入学、卒業、結納、法事といったライフステージごとの家族イベントを重視。地域密着レストランとして少しずつ拡大してきました。
●企業理念は「親孝行・人間好き」
坂東太郎の企業理念は「親孝行・人間好き」。「親孝行」の親には両親だけでなく、すべてお世話になった人、先輩や上司、恩師、友人らが含まれます。孝は誠心誠意尽くすこと、行は自ら実行し続けること、という強い想いが詰まっています。
また「人間好き」には、お客様だけでなく、社員、スタッフ、取引業者にも等しく「幸福」を共有することが存在意義であり、最も大事な企業価値であるという経営哲学が貫かれています。
具体的には、1.お客様に一番喜ばれる店づくりを目指す。1.社員が一番幸福な店づくりを目指す。1.地域に一番貢献できる店づくりを目指す。という、お客様、社員、地域の3方良しの経営を目指しています。
そして、坂東太郎の役割は「家族の絆を深めること」と定義。人と人のつながりの基本である家族の時間が自然につくれる場所、それを深める団らんの場を整えることを目標としています。
●名物料理「味噌煮込みうどん」他、日常からハレの日、弔事までカバーする100種類のメニュー
坂東太郎の最大のこだわりは、食に対する愛です。例えば、看板商品の味噌煮込みうどんは、愛知県岡崎市の老舗味噌店で3年熟成した味噌や出汁を複数ブレンドしたスープを使用。うどんも自家製麺にこだわり、肉や野菜もどっさり入った食べ応えがある一食で、年間200万食以上も地元のお客様に愛されている名物料理です。
メニューの数は、日常からハレの日、弔事までをカバーする100種類以上。3000円~6000円台のお祝い用会席や子供用、法要用会席までランアップ。また、一升餅やお食い初めの膳まで用意されています。こだわりの味を提供するため、すべてのメニューは店内調理で手間暇かけて作っています。
また、還暦祝いには、赤いちゃんちゃんこを貸し出してくれるサービスもあり、地域に深く根を張り、家族の絆を深めていきたいという熱い思いが伝わってきます。
●集まりたくなる場をつくるために15業態を展開
坂東太郎が地元で愛されている理由は、「人が集まりたくなる場所」をいかにつくるかを愚直に追い求めてきた結果といえます。
そのため、あえて人流の多い立地に出店するのではなく、お客様にわざわざ足を運んでもらう場所に店を構えることで家賃コストを抑え、その分を人材や食材に投資。コストパフォーマンスの高いサービスを提供してきました。
また、味がいいことはもちろん、心地の良い空間や座り心地、落ち着ける環境など、お金では買えない心の充足感を得てもらうことを常に考えてきました。
コロナ禍の中でも、2020年3月には新業態の「坂東離宮」を開業。地域で宴会用施設が減って困っているというお客様の声に応えたお店で、会食料理のほか、カニしゃぶやステーキなどを提供しています。
このように、坂東太郎では、一つの業態を多店舗化するのではなく、その地域に住んでいる人がわざわざ行きたくなる多様な業態を次々に開発。
和食レストランを中心に、とんかつ専門店、海鮮料理、焼き肉店、高級パン専門店、すし店、ステーキハウス、和菓子店、マルシェなど15業態を展開しています。
●目指すのは街づくり。地域に密着して成長を続ける
坂東太郎は、地域に店舗をつくることで新たな人流を生み出し、地域の活性化を担ってきました。最近では、自治体とも一緒になって、人口減少が進む地域でどのように街を活性化していくべきかの戦略を練っています。
2021年3月、圏央道の境古河IC近くに、茨城県猿島郡の境町との連携により、「8代葵カフェ ハワイ境店」を新規出店。境町は、ハワイ州ホノルル市と友好都市であることから、この一帯をハワイをテーマにした開発を進めており、その拠点として坂東太郎がカフェをオープンしました。同店には、地場産品の直売所に加え、街の情報を提供するブースを設置。地域のコミュニティーの場としての役割を担っています。
さらに21年12月には、カフェの隣にハワイをイメージした焼肉店も坂東太郎が出店。同エリアには、22年4月に隣接地に造波装置付きのサーフィン施設「S-wave(仮称)」の開業も予定。いまや街づくりを見据えた地域の活性化にも取り組み始めています。
また、食材のほとんどは地元から調達。あえて相場よりも高くても地産地消を基本とすることで、自然が豊かでのどかな地域と共に発展していくことを目指しています。
●従業員を大切にすることで、他にはないサービスを生み出す
従業員は家族、人を幸福にする企業を標ぼうする坂東太郎は、社員のモチベーションを上げる仕組みづくりにも積極的に取り組んでいます。
2007年には、お客様のわがままを率先して引き受けるキーパーソンとして「通称 女将さん」制度をスタート。各店には、店長と地元のパート従業員の女将さんを1人配置。女将さんは店舗のサービス領域のトップとして、フロアの全責任を負います。
女将さんは接客を切り盛りする主役として、接客に優れた従業員の中から選ばれ、お客様に喜んでもらうための行動を自由にしてもらう立場にあります。いわば御用聞きのような存在で、常連客との親密な絆づくりの役目も担っています。
坂東太郎では毎年1回、女将さんの活動を表彰し、知見を共有する「女将大会」を開催。全女将が参加し、実際の店舗でどのようにお客様に喜んでもらえたのかを発表しあいます。各女将のおもてなしの知見を共有し報いることで意識の共通化を図ることが狙いです。
さらに、人は必要とされると力を発揮できるという考え方のもと、従業員は、新人アルバイトを含めて何らかの責任者の役割を担っています。
例えば、食品安全衛生責任者、予約・顧客管理責任者、ポスター貼り付け責任者、小旗・のれん確認責任者、電球切れ責任者など多様な責任者を用意。店内には、スタッフ全員の役割をまとめたボードも設置して、お客様の目に触れるようにしています。
一方で、スタッフの負荷を軽減するため、デジタル化の導入にも積極的にチャレンジしています。例えば、タブレット注文システムの導入や焼肉店ではレーン配膳の仕組みを組み合わせるなど単純な業務を簡略化。より接客を充実させることに取り組んでいます。今後は、AIロボットによる自動配膳システムの導入も検討しています。
さらに、社長自ら店舗に赴き従業員と車座で事業計画など意見交換を行う「社長塾」を開催。経営者と従業員の風通しの良いフラットな組織風土づくりを育んでいます。
●集まりたくなる場所をつくるためなら、あえて非効率もいとわない
2010年に開業した「家族レストラン 坂東太郎」では、店内に入るまでに小径を抜ける演出や広い庭、個室、座敷を充実させるなど、より家族の団らんを意識した店づくりに取り組んでいます。
お客様にいかに長く過ごしてもらうか、いかに子供たちに楽しく遊んでもらうか、といったことばかり考えている坂東太郎。長い時間居ること=居心地が良いという考え方のもと、飲食店にとって重要な指標の一つである「回転率」は一切考えていません。このようなお客様視点を中心においた異色の経営スタイルがお客様から愛されていで理由の一つといえます。
さらに、お客様のわがままを受け止めることを大切にしていることも同社の特徴です。例えばメニュー以外のリクエストにも答えたり、調理方法の注文にもできるだけ対応したりなど、お客様に喜んでもらうためにはあえて非効率もいとわないところが同社の最大の強みといえます。
●外食産業から「しあわせ創造企業」へ
外食産業を文化と呼ばれるものに育て上げていきたい、ただ料理を提供するだけでなく、家族のしあわせの風景をつくるお手伝いをしたい。食を通して笑顔の連鎖をつくり「しあわせ創造企業」として地域に貢献したい。坂東太郎の地域やそこに住む人のしあわせを願う大いなるロマンが、お客様を引き付け、常連客を生み出す原動力となっています。