体験消費時代のマーケティングヒント
みなさんこんにちは、和田康彦です。
私は、京都精華大学で「ライフスタイル論」を担当しておりますが、このたび18~22歳のZ世代の学生293名を対象にファッション商品の購入に関するアンケート調査を実施しました。その結果、デジタルネイティブ世代といわれているZ世代の4割が、ネット通販は利用せずにリアル店舗で購入していることが明らかになりました。(調査期間:2021年6月23日~7月14日、WEBでの自由コメント調査)
※Z世代:1990年中盤~2000年代序盤に生まれた世代。10代前半からスマートフォンやSNSを利用するデジタルネイティブ世代で、他世代とは異なる新たな価値観を持っていることやSNSでの拡散力の強さなどから全世界で注目を集めています。
※本レポートは、2021年9月4日(土)に開催された、日本ダイレクトマーケティング学会 第20回全国研究発表会で発表した内容を書き起こしたものです。
◆調査結果のポイント
①試着したい、お気に入りの店で購入する、ネット通販は不安で怖いという「リアル店舗派」が約4割
②ネット通販と店舗を併用する「ハイブリッド派」が2人に1人
③約8割がSNS情報をきっかけに購入
④ネット通販では、大半が「ZOZOTOWN」を利用
⑤ファッション商品を購入する際のこだわりは「自分に似合うこと」
◆「あなたは、ファッション商品(洋服や靴、バッグ、アクセサリーなど)をネット通販で購入していますか」
ネット通販を良く利用する学生は8%にとどまり、最も多かったのが「ネット通販と店舗を併用しているハイブリッド派」で53%、次いで「ネット通販は利用しない」学生が39%という結果になりました。(n=190)

◆「ネット通販を利用していない人はその理由とネット以外の購入場所を教えてください。」
ネット通販を利用しない理由としては、「自分の目で実際に見て試着して気に入ったら服を購入する」「自分の体型に合った服が少なく、実物をその場で見て確認したり試着してからでないと購入に踏み切れない」といった「試着をして確認したいから」という声が多く聞かれました。
また「ネット購入は、色に多少の違いがあったり、サイズが合わなかったりというリスクもあります。それらが怖いのでネットでは買いません。」「ネットで購入すると思っていたサイズや質感、色味が違うことがあるとよく聞くのでネットでの購入は怖いと感じるからです」といった声のようにネット通販に対して不安感や恐怖感を抱いている学生が多いこともわかりました。
一方で、「古着が好きなのでセレクトショップや古着屋さんに直接行って自分がピンと来たものを買うことが多い。」「しまむら」「GU」「ユニクロ」など、手頃な価格で服が購入できる所を利用しています。」など、お気に入りの店があることもネット通販を利用しない背景にあることが明らかになりました。
◆「ファッション商品を購入する際、SNS情報やライブコマースをきっかけに購入することはありますか」
左のグラフのように、約8割が、ファッション商品を購入する際、SNSからの情報を参考にしていることが浮かび上がってきました。
特に、インスタグラムの影響が絶大で、「インスタグラムの写真を広告代わりに」「好きな人が着ていた服だから欲しい!」「おしゃれに着こなす人がネットにあげていたりするから」「SNSなどでは骨格別の洋服のおすすめなどが多く流れてくる」「インスタグラムでフォローしているモデルやインスタグラマーが着用しているのを見て」「好きなインスタグラマーが着ている服はチェック」「お店の人のSNSから購入する」「instagramでコーデのコツを調べたりしてから店舗に行く」「Instagramから公式アカウントに飛んで購入」「流行りのものや可愛いものの情報を収集するにはSNSが一番」といったように、店舗で購入する際もSNS情報は重要な役割を果たしていることがみえてきました。(n=122)

◆ネット通販でよく利用するサイト名とその理由を聞かせてください。
ネット通販を利用する学生の大半が「ZOZOTOWN」を利用しており、その理由としては、「ファッション用品といえばZOZOTOWNというイメージ」「店舗に行かなくても、一気に色々な商品を見られる」「セールをよくしていて、実際で店舗で購入するよりもお得」「最新のファッションアイテムが手に入る」「ツケ払い、学生のお財布に優しい」「返品交換の対応がきちんとしている」「時間によって割引クーポンが使えたりなどお得」「包装のダンボールが剥がしやすい」「多くの人に名を知られていて安全」「表記がわかりやすい上に早く届いてかつポイントとクーポンがよく発行される」「縫製がしっかりしている」といった声が聞かれ、ZOZOTOWNがZ世代から圧倒的な信頼感を得ている実態がみえてきました。
ZOZOTOWN以外では、「zigzag」「Qoo10」「SHEIN」「manus machina」など海外系サイトの名前が見られました。
◆ファッション商品を購入する際のこだわりを聞かせてください。
まず、「自分の骨格、雰囲気、体型に合いそうか」「流行っていても自分に似合うかどうかをよく考えて」「好きなものではなく、自分に似合うものを見つけたい」「肌の色や体型に最も合うものを意識する」といった声からファッション商品を購入する際は「自分に似合う」ことを重視していることがわかりました。
一方で、「服の素材の柔らかさとか着る時の気軽さ」「色味や生地はしっかり見る」「生地がしっかりしているか」といったように「素材やサイズ感を確認」して商品バリューをしっかり確認している様子も見て取れました。
その他、「流行に乗らない」「人と被らないこと」「ブランドは意識しない」といったこだわりも聞かれました。
以上今回の調査からは、Z世代特有といわれている「堅実・安定志向」「コスパ重視」「体験志向」「スマホは分身」「自分らしさ重視」といった価値観を裏付ける結果がいくつもみえてきました。
◆Z世代に支持されるためのファッションマーケティング、5つの重要ポイント。
最後に、今回の調査結果から、Z世代に支持されるためのファッションマーケティングで重要なポイントとして以下の5つがみえてきましたので提言したいと思います。
まず一つ目のポイントは、リアル店舗とネット通販体験を組み合わせたカスタマーサクセスの提供です。Z世代はデジタルネイティブ世代ですが、ファッション商品の購入に際しては半数以上がリアル店舗とネット通販を併用しており、試着や生地の厚みや触感を確認することを非常に重視しています。従って、リアル店舗とネット通販をシームレスにつなげるサービスを提供することで「買って間違いなかった、買ってよかった」と感じてもらえる成功体験を生み出すことが非常に重要になってきます。
2つ目のポイントは、徹底した高コストパフォーマンスと利便性の提供です。今回の調査では、ユニクロやGUを支持する声が際立ち、両者はZ世代の身近なスタンダードブランドともいえます。一方で金銭感覚は保守的でリスクを極端に嫌う一面も持っています。従ってZ世代に支持されるためには商品だけでなく買い物体験を通して「お得感」を感じてもらうことが絶対条件といえます。
3つ目のポイントとしては、サステイナブルにも配慮した商品やサービスの本質的価値(ハイバリュー)の提供が挙げられます。今回の調査では、「いいものを長く楽しみたい」といったZ世代のロングレンジ思考も読み取れました。今後は、彼らの環境に配慮した消費行動の機運は確実に高まっていくことも予想され、愛着の持てる商品を長く愛用できる本物価値を提供していくことが大切になってきます。
そして4つ目がSNSを核にした信頼と共感づくりの絆コミュニティの構築です。スマホが分身の彼らにとってSNSはマスメディア以上に貴重な情報源です。特にファッション商品の購入に際してはインスタグラムの情報を非常に頼りにしており、購入の意思決定にも影響を及ぼしています。SNSを通して醸成する信頼できる友達のような関係づくりがZ世代と付き合っていく上で重要なコミュニケーション戦略となります。
最後の重要なポイントは、「自分らしさ」の形成を応援するパーソナライズ体験の提供です。彼らがファッション商品を購入する際に大切にしているのは「自分に似合う」こと。体型や好み、TPOに合わせていかに一人一人の「自分らしさ」の創造に寄り添っていけるか、AIやデジタル技術を活用したパーソナライズ体験の提供が今後Z世代から支持されるための鍵を握ります。
以上、少子化世代とはいえ、Z世代がこれからの消費のリーダー的存在であることは揺るぎない事実であり、企業は消費市場におけるZ世代の台頭による変化を確実に捉え、今後の成長戦略を構築していくことが求められます。
みなさんこんにちは、和田康彦です。
日本経済新聞社が実施した2020年度のコンビニエンスストア調査(国内コンビニの14社を対象に4~6月に実施し、2期比較できる8社からの回答結果)では、セブン-イレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソンの大手3社の合計売上高は5.8%減の10兆3591億円と大幅な減収になりました。新型コロナウイルスの感染拡大で、オフィス街に立地する店舗は在宅勤務が広がった影響を受け、観光地の店舗は旅行客の減少が売上高に響いた結果です。
一方で、2019年2月時点で40店舗だった大手3社の時短店舗数は、2021年2月には2200店舗と大幅に増加。
公取委の20年9月の調査では、対象とした約1万2千店の約7割が時短営業への切り替えや実験を希望するなど、オーナーからの関心は引き続き高く、今後も時短営業店が増える可能性があります。
背景には、人出不足や人件費上昇による経営環境の悪化があり、各社はセルフレジの導入やキャッシュレス決済の対応など、省力化と新型コロナウイルス感染拡大対策としての非対面に向けた取り組みを加速しています。
◆ファミリーマート、2024年末までに無人コンビニ店舗を1000店舗出店
2018年1月、米アマゾン・ドット・コムがシアトルにオープンしたレジなしコンビニエンスストア「アマゾン・ゴー」のニュースは日本でも大きな話題となったのでまだ記憶に新しいかと思います。
「アマゾン・ゴー」は、店内のカメラやセンサーで来店客と商品の動きを把握し、決済はスマホに事前登録したアプリで済ませる仕組み。現在ではシアトル、サンフランシスコ、ニューヨーク、シカゴに合計26店舗を展開しています。
米国や中国で先行した無人店舗、ようやく国内でも本格的な導入が始まります。ファミリーマートは無人コンビニ店舗を2024年末までに約1000店出店する計画を発表しました。
ファミリーマートは国内に約1万6000店舗を展開し、年間200~500店を出店。今後は、無人店舗を出店の軸にしていく計画です。人口減少で人出不足が深刻化する中、これまで採算がとりづらかった地域への出店も可能になり、買い物難民解消の手段としても期待が高まっています。
利用者は専用ゲートから無人店舗に入り、手に取った商品は天井などに設置したAIカメラや棚の重量センサーで店側のシステムが把握する仕組みです。利用者は決済端末の前に立つと商品名と金額がモニター表示され、電子マネーや現金で支払います。

通常店舗同様に約3000品目の扱いが可能であることが強みで、出店コストは従来型の約2割高ですが、荷受けや商品補充以外の人出は不要になり人件費削減に期待がかかります。

◆各社で進む無人店の取り組み
ファミリーマート以外の小売店でも、省力化や非対面の実現に向けた無人店舗化の取り組みが加速しています。
ローソンでは、客が自分のスマートフォンで商品のバーコードを読み込むスマホレジを全1万4000店で導入。イオンは、客がスマートフォンでバーコードを読み取り決済する仕組みを傘下のスーパーで21年以降1000店に拡大する計画です。また、ミニストップでも完全キャッシュレスの無人販売所を21年度中に1000カ所に展開。セブン-イレブン・ジャパンでもNECと組み、決済に顔認証技術を使う無人店舗の実験を進めています。
◆デジタル技術による小売業の効率化は不可欠
2020年6月の厚生労働省の規制緩和により、無人店の衛生管理は担当者による巡回で代替可能に。これにより、人口知能やキャッシュレス決済を活用し、レジ作業を行う従業員のいない無人店舗の展開が日本でも可能になりました。
日本の労働生産性は主要7ヵ国(G7)中最低。経済協力開発機構(OECD)に加盟する37ヵ国中21位と低い水準にとどまっています。特に小売業は労働集約型の産業であり、人出不足が根強く、省人化で生産性を向上させ事業運営を効率化する取り組みは、今後生き残っていく上でも不可欠です。
9月には日本にもようやくデジタル庁が発足しました。今後は官学民が連携してデジタル技術で日本の労働生産性を高めていく取り組みを本格化させなければなりません。
みなさんこんにちは、和田康彦です。
すでにご存じの方も多いと思いますが、『無印良品』は、2021年秋冬シーズンとして、ベストセラー商品を中心とした約200品目の価格改定を随時実施することを発表しました。

対象は、食品、生活雑貨、寝装ファブリック、衣料品など多岐にわたりますが、どれも『無印良品』を代表するものばかり。
例えば、発売以来、累計販売200万台を超えるロングセラー商品で“人をダメにするソファ”として話題となった『体にフィットするソファ』(本体)は、9,900円から7,990円と2000円弱も安く購入できます。
また、『素材を生かしたカレー』は250円~450円に改定。その機能性から人気の高い『シリコーン調理スプーン』は590円から490円に、収納に便利な『ポリプロピレンファイルボックス・スタンダードタイプ・ワイド・A4用ホワイトグレー』は690円から590円に改定されました(価格はすべて税込)。
今回の値下げは、コロナ禍の影響で原材料の高騰による値上げ発表が相次ぐ中での英断であり、無印良品としては社運を賭けた重要な取り組みであると私は分析しています。
新型コロナウイルスワクチンの2回目の接種を受けた人の割合が全国民の5割になったとはいえ、感染拡大の収束時期はいまだ見えず、先行き不透明感は拭えません。
そんな中、消費者の節約志向はさらに強まるとの見方は根強く、イオンの吉田昭夫社長も「消費者の価格感度は高まっており、消費二極化の中でディスカウントへのニーズはさらに大きくなる」と分析しています。
◆2020年の実質賃金は前年比1.2%の減少
2020年毎月勤労統計調査(確報値、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年比1.2%の減少になりました。
これは、消費税が8%に引き上げられた2014年の2.8%減以来の大きな減収率になり、残業代と賞与の減少が要因としてあげられます。
昨年は、新型コロナウイルス感染拡大による時短営業とテレワークの推進により、残業代にあたる「所定外給与」は12.1%減り、賞与など「特別に支払われた給与」も3.6%減少しました。いずれも比較可能な13年以降では最大の減少率となり、家計に重くのしかかってきていることが推察できます。
また日本経済新聞の調べでは、アベノミクス以降、日本企業(比較可能な上場2049社)の平均賃金は上昇していたものの、2021年3月期は632万円と2%減少したという報告もあります。
◆30年間ほとんど賃金が伸びない日本の生活者
物価の影響を考慮しない名目賃金を1990年と比べると、米国が2.6倍に膨らみ、フランスも90%増えている一方で、日本はわずか4%増と、30年間ほとんど賃金が伸びていないことがわかります。
経済協力開発機構(OECD)によると、日本の平均賃金は約3万8500ドル(約420万円)でOECD平均より2割も低く、2019年の国際比較では、日本は最高のスイスの6割にとどまっているそうです。
背景には、労働生産性の低さ、春闘など一律の賃金交渉、もともと低い初任給、昇給ベースの鈍さ等が考えられますが、賃金が伸びていないのは、日本の競争力が明らかに低下していることを物語っています。
◆日本人の購買力が上がらない悪のスパイラル
世界各国のディズニーランドの入場料(大人1日)を比較しても、パリの1万800円、米フロリダの1万4500円に対して、日本は8200円と最安値です。
また、100均を展開するダイソーは海外に2000店舗以上出店していますが、日本の価格は海外に比べて最安値水準だといいます。
このように、製品の値上げがしづらい日本では、企業は儲けを出しづらく、その結果従業員の賃金が上がらず、賃金が上がらないために消費が増えず、物価も上がらないという悪のスパイアラルが起きています。
前回のブログでも取り上げたように、業務スーパーを展開する神戸物産が、2021年10月期の純利益が前年比33%増の200億円と過去最高益になるというニュースも、コロナ禍の中で生活者の懐事情が厳しさを増していることを物語っています。
◆コロナ禍での生き残りのキーワードは「コストパフォーマンスの高さ」
今生活者が求めているのは、価格に対する提供価値の高さです。食品スーパーのヤオコーは5月の決算説明会で、2021年度からDSの新業態「フーコット」を本格展開することを明らかにしました。「商品の圧倒的な安さと鮮度、品ぞろえで満足できる店」とのコンセプトを掲げ、まずは年度内に2店舗を出店する計画です。
また、首都圏で「ディスカウントスーパーマーケット」を展開するオーケー(横浜市)は21年3月期の売上高が前の期比約17%増の約5000億円を達成。毎日安売りの戦略が顧客の支持を集めています。
ドラッグストアでも安売り志向の強いチェーン店が台頭しています。九州発のコスモス薬品は「ディスカウントドラッグ」を掲げ、低価格戦略を成長の原動力としてきました。
コスモス薬品も毎日安売りの戦略を採用し、商品をカゴ一杯に入れた合計価格で競合店には負けない戦略を貫いています。21年5月期の売上高は前の期比6%増の7264億円、純利益は同27%増の271億円で過去最高を更新しました。
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)やトライアルカンパニー(福岡市)といった既存のDS勢も業容拡大に意欲を見せています。
そんな中、無印良品の今回の大幅値下げは、コロナ禍の中で生き残っていくための大英断であると言えるのではないでしょうか。
デジタルテクノロジーを駆使して、どこよりも効率的な小売業態を確立する。そのうえで、顧客に最高の商品と究極のサービスを高い原価率で提供すること。それこそがニューリテールが目指す一つの方向性です。