体験消費時代のマーケティングヒント

みなさんこんにちは。和田康彦です。
長らく低迷が続いていた日本の電機大手の中で、ソニーグループの復調が鮮明です。2021年3月期の決算では、初めて純利益が前の期の2倍の1兆円を超えました。
そして、今後の成長戦略として、ゲームや映画、音楽などのエンターテインメント分野を軸に、顧客基盤を現状の1億6千万人から10億人に拡大する方針を打ち出しました。
ソニーグループの強みを持つコンテンツを活かして、ファンとのつながりを育てることで独自の成長を目指す戦略です。
ソニー復活から、私たちが学べることは多くあります。
その一つが、以前にもご紹介した、パーパスを原動力にした経営構造改革の重要性です。お客様に共感される存在意義(パーパス)を再定義しよう! - 女性を笑顔にするマーケティング研究会 (womanmarketing.net)
ソニーグループでは、11万人の社員がベクトルを合わせて事業を動かしていくために、社会的存在意義を改めて定義し、策定後は繰り返しパーパスについてのメッセージを発信し、社員の共感や納得感を高めてきました。
同グループが策定したパーパスとは「クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす」というものです。
そして、パーパスのキーワードである「感動」の主体は「人」であり、経営の方向性を「人に近づくことである」と定義しています。
そのうえで、ソニーグループの事業を①人の心を動かす事業②人と人をつなぐ事業③人を支える事業の3つを新たなドメインとして設定しました。
まさに、電機の会社からエンターテインメントを中心とした複合企業への転換であり、人々に感動を提供するために、コモディティ化した製品からは手を引き、映画や音楽といった、それまでは傍流とみなされていた事業の力をフル活用する方向に舵を切ったのです。
ソニーグループの復活から学びたい二つ目は、成長戦略のキーワードに「コミュニティ」を置いていることです。
ソニーでは、共通の感動体験や関心を共有する人々が集まり、クリエイターとユーザーがつながる場を「コミュニティ・オブ・インタレスト」と定義し、それらをいくつもつくることを目指しています。
「コミュニティ・オブ・インタレスト」は、単なる登録会員の集まりではなく、熱心なファンの集まりです。
例えば、漫画原作の「鬼滅の刃」は、2019年ソニーグループ傘下のアニプレックスが企画したテレビアニメの人気をきっかけに、2020年に公開した映画は国内の興行収入記録を更新する大ヒットにつながりました。
主題歌の楽曲やグッズ企画に加えて海外でも映画を公開し、アメリカでも大ヒットしています。同時にアニメの続編やゲーム開発も進んでいます。
ちなみに、同グループでオンライン対戦などを楽しむ有料会員は約4600万人で、収益の柱に育ちつつあります。
このように、強みを持つコンテンツを活かしてファンとのつながりを育てることで、独自の成長を目指します。
今後は、ゲーム、音楽、映画などのグループのエンタメ事業間の連携を深め、外部パートナーとの協業を強化することで、ソニーグループとつながる顧客を10億人にしていく計画です。
今回は、ソニーグループという日本を代表する大企業の事例を紹介しましたが、小さな会社でも、これから重要なのは、ファンを育ててコミュニティ化し、長く深くお付き合いしていくことです。
マーケティングとは「market+ing」という構造になります。「market」を辞書で引くと「市場」という意味が出てきますが、マーケティングにおけるmarketは「顧客」ととらえるとわかりやすいと思います。
つまり、マーケティングとは「顧客ing」であり、顧客を創造し維持する活動ととらえることができます。
顧客を創造するというのは「新規客を獲得すること」、そして顧客を維持するというのは、「一度お客様になってくれた人と長く深くお付き合いしていくこと」です。
少子高齢化が進み、人口が減少していく日本では、これまでのように新規顧客を増やしていくことは容易ではありません。
これからは、一度お客様になってくれた人と長く深くお付き合いしていくことに注力することが大切です。
そのためには、あなたの会社や商品に共感する人を集めて、コミュニティ化していくことが重要なのです。