体験消費時代のマーケティングヒント

みなさんこんにちは。和田康彦です。
前回のコラムでは、アマゾンの創業者兼最高経営責任者のジェフ・ベゾス氏がCEOを退任し、取締役会長に就任するというニュースを取り上げました。http://womanmarketing.net/info/3750033
ジェフ・ベゾス氏によると、アマゾンには原動力となる3つの考え方があるといいます。一つは「常に顧客中心に考える」こと、二つ目は、前回のコラムでもご紹介した「発明を続けること」、そして三つ目が「長期的な視点で考える」ことです。
なかでも一つ目の「顧客中心に考える」については、「私はアマゾンを地球上で最も顧客中心の会社にしたい」というほど、創業当初からの経営哲学になっています。
一方、後任のCEOになるアンディ・ジャシー氏はアマゾンの収益の柱になったクラウド事業、アマゾンウェブサービス(AWS)を育てた実績の持ち主です。ベゾス氏がネット通販の強化のため「信頼性や拡張性が高いIT基盤がいる」と主張したところ、ジャシー氏が「他社にも同じ課題があり提供できるはずだ」と考えたことが事業拡大の契機になったといいます。
とはいえ、企業が対象のクラウドは一般顧客を対象としたネット通販とは勝手が違います。ジャシー氏は顧客のもとに足しげく通ってニーズをくみ取り、サービスに反映させました。「人の話をよく聞く」との評もこうした経緯があるためです。急成長の秘訣を尋ねると、いつも「顧客の声に耳を傾けること」と答えています。
顧客の声に常に耳を傾け、顧客が感動するほどのサービスを提供し続けることで、満足した顧客は、ネット上で「アマゾンは素晴らしい」という評価を高めてくれ、新規の顧客が爆発的に増えていく。
実際、アマゾンが創業からわずか1ヶ月で全米だけでなく、世界45カ国にまで利用客を広げることができたのは、利用した人が勝手に広めてくれたといっても過言ではありません。
かつて企業がブランドを築くためには、持てる資金の多くを広告宣伝につぎ込むことが必要でしたが、ネット時代にやるべきことは、持てる資金や時間の大半を優れた顧客体験の実現に使うことであり、宣伝の占める比率はとても小さくなったというのがべゾス氏の考え方です。
「満足した顧客は、製品が良かったことを平均3人に話すが、不満のある顧客は平均11人に不平をもらす」は、マーケテイングの神様、フィリップ・コトラーの言葉ですが、べゾス氏はネット上の口コミは、現実世界の口コミよりもはるかに大きな影響力を持っていると、創業当初から考えていたことがわかります。
実際、満足を得られなかった顧客は、現実の世界ではほんの数人にしか不満を漏らせませんが、ネット上でなら数千人、数万人といった規模で不満を広めることが可能となります。
つまり、インターネット時代は、カスタマーサービスでやりすぎるということはありません。やるべきことは、ただ一つ、顧客との約束を守り、顧客が感動するほどのサービスを提供し続けることだけです。アマゾンが次々に発明を生み出してきた背景には、「私はアマゾンを地球上で最も顧客中心の会社にしたい」という、常に顧客中心に考えるという強い信念が宿っています。