体験消費時代のマーケティングヒント

2022-07-29 11:58:00
「知の共有」で驚異的な高収益を生み出す会社、キーエンス。

みなさんこんにちは、和田康彦です。

 

20223月期の従業員1人あたりの営業利益が、前の期比46%増の4821万円と過去最高を更新。平均年間給与も2182万円と過去最高を更新している会社が株式会社キーエンスです。

 

同社は、ファクトリーオートメーションの総合メーカーで、製品の生産を外部に委託するファブレスのビジネスモデルが特徴です。

 

20223月期の売上高は7552億円、営業利益は4180億円。営業利益率は55.3%と驚異的な数字を実現しています。直近の20224~6月期の純利益も796億円と過去最高を更新。成長の勢いはとどまるところを知りません。

 

高収益を生み出す背景には、顧客ニーズを的確につかむ営業活動をもとにした、付加価値の高い製品を販売する仕組みづくりがあります。

 

足で稼ぐ顧客訪問にとどまらず、最近ではネットでも商談の糸口を探し、顧客拡大につなげています。

 

それでは具体的に、キーエンスが高収益を生み出している仕組みについてみていくことにしましょう。

 

◆目的を明確にした顧客訪問と担当者間での徹底した情報共有。

キーエンスでは、下記に示すように、社員一人ひとりが行動の目的を意識し、会社として最大限の付加価値を生み出すために何をすべきか常に考えながら動いていることが高収益を生み出す原点になっています。

 

顧客訪問には、「商品購入してもらうための訪問」「購入のタイミングを知るための訪問」「相手先のキーマンを探すための訪問」があり、営業担当者は、翌日の顧客訪問の目的を常に明確にしている。

 

訪問目的は、自分の頭の中で考えるだけではなく、「外出報告書」に明記して上司からアドバイスを受ける。顧客のキーマンを把握したうえで会話の流れまでシミュレーションする。

 

外出報告書は、担当者が1日の顧客回りを終えて帰社するとその日の行動も分刻みで書く。商談した顧客のニーズ、実機を使ったデモンストレーションの有無、それに対する反応を記録する。

 

担当者は週34日を外回りに充て、1日あたり510件を訪問する。報告書は他の企業にもあるものの、単なる連絡にとどまるのが一般的だが、キーエンスはつぶさに情報を吸い上げ、PDCA(計画・実行・評価・改善)を1日ごとに回す。

 

SFA」と呼ばれる営業支援システムにも同様の内容を入力する。担当者の間でデータを共有することが目的であり、担当者ごとに顧客訪問や商談の件数、顧客企業のキーマンにどれだけアクセスしたか数値化したフォロー率などが確認できるため、客観的に何が課題なのか分かる。

 

◆営業と開発の部門間の情報共有も特徴的。

営業の拠点は世界各国にある一方、開発は大阪府2カ所と東京都の計3カ所しかない。開発部門には毎月、各国の営業部門から数千枚に上る「ニーズカード」が届く。カードには営業担当者が顧客から聞き取った問題や要望が書いてある。開発部門はカードの内容を基に、新製品をつくる。

 

営業担当の顧客訪問に開発担当が同行する企業は多いが、キーエンスではほぼゼロ。それぞれの部門がそれぞれの仕事に集中する分業体制の方が、無駄な仕事が省け効率が高いと考えている。

 

◆ネットの閲覧履歴を活用して潜在顧客を開拓。

キーエンスでは、リアルな顧客訪問に加えて、下記のような仕組みでネットの閲覧履歴を活用して潜在顧客を開拓する取り組みにも乗り出しています。

 

キーエンスのホームページで個人名や会社名、部署などを入力して会員登録すると「出荷ミス完全回避術」といったタイトルのコンテンツがダウンロードできたり、「キーエンスのデータ活用『試行錯誤の歴史』」などのオンラインセミナーに参加できたりする。

 

キーエンスには誰がどのようなコンテンツを見ているのかデータが集まる。会員がログインした状態で、ホームぺージに掲載しているセンサーや3Dスキャナーなどの製品を閲覧すると、どのような製品に興味を持っているのかもつかめる。

 

閲覧履歴を専用のソフトウエアで分析し、会員登録している顧客の困りごとや関心をあぶり出す。営業担当者は受注までの打ち手を考える。

 

なかには「出張応援コラム」と銘打ち、海外出張で役立つ食文化や交通事情、ビジネスマナーなどを国別に解説するコンテンツがある。例えば、あるメーカーの設備や量産技術の担当者が中国の情報をたくさん見ていれば、現地に工場の建設計画がありセンサー導入のニーズがあるなどと推測できる。

 

◆人材育成でも情報共有を重視。

同社は、人材育成でも情報共有を重視しています。営業の研修用テキストにはノウハウを事細かに記載しており、電話でアポを取る時間や顧客のキーマンを見つけるための組織図づくりといったツボも惜しみなく伝授されているようです。

 

また、米国など海外拠点の営業担当には、職場や入社年次が近い人の商談の成功例を教えており、一部の「できる人」に頼るだけでなく、ノウハウを広げることで、組織としての生産性向上につなげています。

 

以上見てきたように、全部門でデータを共有化することで顧客ニーズを的確につかみ、付加価値の高い提案を顧客に提供することで、驚異的な業績を達成しているのです。

 

属人的や偶発的な成功より、成功を再現できる仕事の仕方を重視。「すべては顧客の成功のために」という考え方のもとで、全社が同じ方向性で取り組んでいることが、同社の驚異的な業績を生み出す原点といえそうです。

 

あなたの会社でも、すべての情報をガラス張りにして顧客ニーズをあぶりだし、知を共有することで、付加価値の高い提案ができる仕組みを考えていきましょう。