体験消費時代のマーケティングヒント

みなさんこんにちは、和田康彦です。
みなさんは「チャコット」というブランドをご存じですか。
チャコットは、バレエを習う子どものレッスンウエアから世界で活躍する一流アーティストの衣装まで、バレエやダンスに関わる多彩な商品、サービスを展開するブランドです。
同社は、オンワードグループに属する創業70年の老舗企業。スタジオの運営、公演・コンクールの協賛など幅広い活動を行い、芸術を愛する人々と伴走しながら、広く芸術文化を支え続けてきました。
しかしながら、演劇、芸術領域は、コロナの影響を大きく受け厳しい状況が続いています。また人口減少に伴い、そもそも日本国内のバレエ人口自体も減少が続いています。昭和音楽大学バレエ研究所「日本のバレエ教育に関する全国調査」によると、国内のバレエ人口は、2011年の40万人から2021年では25.6万人に減少しています。
▪芸術とは、人生を芯から美しくするものである。
コロナ禍に先立つ2018年に着任した馬場社長は、バレエを中心とした魅力とは何かを考えていったとき、これまで芸術文化を支え続けてきた専門性は維持しながら、「芸術とは、人生を芯から美しくするものである」と新たに捉え直すに至ったといいます。そして、このコンセプトを軸に置きながら、広く心身の美のために何ができるかを追求していきます。
バレエは敷居が高いというイメージもあるため、経営戦略として“特定の顧客”だけでなく、“多くの生活者”を対象とする「クローズからオープンへ」を掲げ、新たな戦略を次々と打ち出しました。そして戦略の核になるブランドフィロソフィーを、“人生を、芯から美しく。”と設定しました。
▪フィロソフィーを核にしたブランド展開を強化。
祖業であるバレエで培ってきた技術を使って、バレエを知らない人にも広くチャコットを知ってもらいたい。結果として、バレエ自体にも興味を持っていただけるような、そんな循環をつくっていきたい。というのが馬場社長の熱い思いです。
そこで“人生を、芯から美しく。”を拡げていくため、現在、バレエ製品以外のウェルネスブランドとして2つのブランドの展開の強化を進めています。
バレエ関連に次ぐ売上を稼いでいるのが、ステージメイク用品として1997年から販売を開始し、原材料や日本製にこだわった開発・製造を行うことで高い信頼を得ているコスメ製品です。ステージライトのもとで映える発色、汗・皮脂への強さなどはプロのアーティストからも絶賛されてきました。
2021年4月には、ふだん使いにも対応できるアイテムとして大幅なリニューアルを敢行。新たに「チャコット・コスメティクス」として、全国26の直営店の他、バラエティショップ、コスメ専門店等での販売を強化。購入者の約6割をバレエに関わっていない一般消費者が占めているといいます。
また、2019年に始動した「チャコット・バランス」というフィットネスウエアブランドは、ヨガやピラティスに適しているものの、あえてシーンを限定しない、心身を「整える」ためのバランスウエアという位置づけでスタート。
バレリーナが身に着けるウエアの技術が凝縮されているため、可動域が広く動きやすいのが最大の特徴です。レギンスやトップスの主力素材にはレオタード素材を多用しているため、やわらかく肌になじみます。スポーツメーカーのフィットネスウエアが『鍛える』ためのアクティブなアイテムであるのに対して、同社のアイテムは、バレエウエアの専門技術を生かし、所作の一つひとつが美しく見えるエレガントさを追求しているところが強みです。
さらに、2020年10月に新商品として投入したデニムは、「バレエスキニー」と命名してSNSで発信したころ、想像を超える大きな反響があり、姿勢を「整える」デニムとして人気商品となりました。フィットネスウエアはコロナ禍でも売上が好調に推移しており、現在では単独のショップも誕生するまでに成長しています。
▪クローズからオープンへ。
一方で、「クローズからオープンへ」を加速するため、2022年3月、代官山にチャコット本店をオープン。代官山本店は、ブランドフィロソフィーとして掲げている“人生を、芯から美しく。”を具現化する次世代型グローバル・フラッグシップストアと位置づけています。
地下1階、地上5階建て、建物全体がアート作品ともいえる館内には、美しいバレエ衣装が飾られ、各階にアート作品を配置しています。4階のレストランは天井を高めにとり、スタジオはまるで緑の公園の中で踊っているかのような気持ちになるといいます。
この代官山本店は、“人生を、芯から美しく。”することを実際に体感できる場所としての位置づけです。商品を売ることだけが目的ではなく、代官山の丘で過ごす時間を楽しんでいただき、食やスタジオなどをきっかけにお客様自身のライフバランスに目を向けてもらいたい、バレエ文化にも親しんでもらいたい、という想いが詰まった、いわばチャコットのふぃろを発信する場所といえます。
自社ブランドのパーパス(存在価値)は何か、を改めて深く探求し、そこから導き出されたフィロソフィー“人生を、芯から美しく。”を核に、新たな戦略を次々に打ち出していく。
戦略の核になるのは、ぶれないフィロソフィーであることを学べる事例です。