体験消費時代のマーケティングヒント

2021-11-05 16:10:00

みなさんこんにちは。和田康彦です。

 

東京や大阪を中心に駅ナカや駅近で見かけるオシャレな花屋さん、青山フラワーマーケットは、「Living With Flowers Every Day」をコンセプトに、 花や緑に囲まれた心ゆたかなライフスタイルを提案するフラワーショップです。

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1989年に事業を開始した青山フラワーマーケットは現在、国内に117、海外に2店舗を構えています。運営するパーク・コーポレーションはほかにも、植物を身近に感じられるカフェや、フラワースクール、植物を取り込んだ空間デザインなど複数の事業を展開しています。

 

2011年度の売上は529000万円、その後順調に成長し2019年度は873000万円にまで拡大。女性はもとより最近では男性客も取り込み、年間400万人以上のお客様に花のある生活を提供して人気を集めています。

 

●日本の生花マーケットは法人向けが中心

日本で最も売れている花は、菊、ユリ、バラ、カーネーション、胡蝶蘭、トルコキキョウで、これらで卸売市場の60%以上(金額ベース)を構成しているといわれています。つまり、日本の花き市場の需要の中心は、胡蝶蘭に代表されるギフトや葬儀といった法人需要であり、個人の需要としては、母の日に購入されるカーネーションが突出しているのが現状です。

 

多店舗展開している生花販売業者は多くはありませんが、そのほとんどの主要顧客は法人であり、ギフト需要に応えるために高価な胡蝶蘭や大輪のバラやユリを常に在庫。多くは結婚式の需要に備えてホテルに出店しています。

 

一方で、個人の需要をターゲットとする生花販売業者は、持ち帰りの利便性を考慮して住宅地の駅周辺や住宅街の中に出店。ほとんどの店が、個人需要の中心となる母の日のカーネーションと、仏壇に飾る仏花を頼りに商売を続けています。ただ、これらの需要だけで売り上げを安定させることは容易ではないので、地域のレストランやブティック、オフィスなどと活け込みの契約を結んだり、フラワー・アレンジメントの教室を開いています。

 

花を通した「ライフスタイル提案」で幸せを届ける

青山フラワーマーケットのコンセプトは、「Living With Flowers Everyday」(花のある時間と空間)を提供すること。「Private & Daily」(個人の日常使い)の花に特化し、自らの事業を「花」を販売するのではなく、花がある生活を届けるサービス業と定義しています。

 

パリのマルシェをイメージした店内には、産地にこだわった季節の花を豊富にディスプレイ。洗練されたイメージを保ちつつ、新鮮で多様な種類の花を安価に提供することで、日常の生活に手軽な価格で花や緑を取り入れたいと考えていた女性の潜在需要を掘り起こしました。

 

オシャレな花や珍しい花を買いやすい価格で提供

青山フラワーマーケットがオシャレな花や珍しい花を買いやすい手軽な価格で提供できるのは、

Private & Daily」な花なので、ギフトの花束によく使われる赤いバラなどを常時仕入れる必要はなく、旬のものを仕入れることで仕入れ値を抑えられる。

 

また、「Private & Daily」な花は、需要が安定する傾向があり、ロス率が低いため高い原価率で提供できる。

 

③さらに、青山フラワーマーケットは駅ナカや駅近など、人通りが多いところへ多店舗出店することで、商品の回転率を高め、廃棄ロス率を低くすることができる

 

多店舗出店することが、出店コストの削減や仕入れコストの低減にも繋っている。

 

以上のような点が挙げられますが、まさにフラワービジネスのイノベーターといってもよいでしょう。

 

年間400品目以上、バラ1品種でも900以上の品種を扱う

青山フラワーマーケットの魅力は、いつ訪れても珍しい花の品種に出会うことができ、常に新しい発見があることです。取扱う品種は年間400品目以上。同じバラ1品目でも900以上の品種を扱っており、好奇心旺盛な女性の購買意欲を高めています。

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この種類の豊富さが、店頭では多彩な色や質感を印象づけながらも全体として落ち着き感をアピール。野性味と洗練が共存する同店ならではの魅力を発信しています。さらに同社では新しい品種開発にも積極的に取り組み、他社には真似できない提案力を磨き続けています。

 

冷蔵ケースのない、独特の雰囲気を生み出す店づくり

これまでの花屋では、ガラスキーパーといわれる冷蔵庫に生花が収められていることが常識でした。青山フラワーマーケットでは、この常識を覆し、店舗で花を買う経験を顧客が楽しめるものにするため、花をガラスのキーパーに入れず、近距離で香りを確かめながら花を選べるようにディスプレイしています。

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顧客と花を隔てない店づくりは、訪れたお客様が近距離で花の香りを楽しめると同時に、花の色見や質感とも相まって五感を刺激され、「欲しい」という気持ちを高めることにつながっています。

 

また、全ての商品には価格を明示し、花についての情報を黒板やPOPによって伝達するなど、お客様の立場に立ったわかりやすい店づくりに取り組んでいます。

 

●人気の小さなブーケ「ライフスタイルブーケ」が売上を牽引。

同社の品揃えの特徴は、個人が日常に飾るのに適した多様な花の品揃えに特化している点にあります。例えばバラは中程度の茎の長さのものを常に多種類揃えていますが、法人需要で求められる大きなアレンジメントを作るのに必要な茎の長い高価なバラや胡蝶蘭はおいていません。また仏花に使われる伝統的な菊もおいてありません。

 

さらに同社の成長を牽引するのが、顧客が即座に持ち帰ることができるプレアレンジド・ブーケの提供です。個人が自分のために飾ると位置づけられたブーケは、さりげない、しかも素人には真似のできない組み合わせの小さな花束で、価格は350円から1500円。「キッチン・ブーケ」、「リビング・ブーケ」、「ダイニング・ブーケ」などの商品名で販売しており、通りすがりの人でも手にしやすく、衝動買いを誘っています。

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さらに店頭では、ブーケに合うオリジナルのちょうどいいサイズのグラスを販売するなど、ブーケとのついで買いを促進しています。

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顧客の立場に立ったきめ細かなサービス

同社は常にお客様の立場で考えることを最重視しています。花屋の都合でお客様のことを考えるのではなく、顧客の視点でより良い体験の提供を目指してきたことが、成長を支える原動力になっています。

 

顧客と対面で向き合うのではなく、むしろ横に立ち同じ方を向くことを大事にしている青山フラワーマーケットは、花には必ず切り花用の鮮度保持剤を添え、お客様が一日でも長く楽しめることにこだわっています。

 

また、アレンジメントなどを入れる配送用の箱は、配送時に花が開いてしまうことも考えて大きめに制作。ブーケを束ねる輪ゴムは目立たない白を採用。切り花を入れる袋は、花が飛び出さないようにちょっと大きめに作ったり、小さな花束には袋の中で揺れても気にならないように小さめを作るなど、お客様の立場に立った小さなこだわりが女性ごころをつかんでいます。

 

さらに、市場から店までの花の輸送は陶器の運送を専門に行っていた運送会社に依頼。近い距離から眺められることの多い日常の花にとって、輸送中に花弁が折れたりしないことは最重要。陶器を扱っていた運送会社に依頼することで、花の品質を維持して店に届ける物流を実現しています。

 

店舗に権限移譲、現場の挑戦力が成長を支える

同社の成長を支えているのは、2030代を中心とした若い従業員が主体性をもって挑戦し続ける人材力です。青山フラワーマーケットでは、「Private & Daily」な花のニーズが店の客層によって異なるため、店舗に発注権限を与えています。さらに、店のスタッフの採用から収益管理まで店舗に権限移譲することによって、最適な発注と売り場構成が可能となり、廃棄率の低下にもつながっています。権限移譲は人材育成の機会ともなり、店舗運営の継続的な効率改善につながっています。

 

●2016年には、「幸せな気持ちになれるブランド」評価第一位を獲得

ここまで見てきたように、同社の価値提供は、モノとしての生花の販売ではなく、「Living With Flowers Everyday」(花のある時間と空間)というコンセプトの実現にあります。

 

「花のある時間と空間」は、店舗での購買経験に始まり、自宅までの移動の時間と空間、自宅での時間と空間までを含んでいます。そこで同社は、店舗での購買経験をより心地よいものにするために、新しい品種を積極的に取り入れる品ぞろえ、洗練されたビジュアル・ディスプレイ、商品知識豊富な店員の育成に注力してきました。

 

さらに自宅までの移動の時間も心地よくするために、オリジナルの紙袋やボックスの提供を行なっています。また、自宅で花を楽しむ時間を考慮して、保水ジェルによる水切れの防止、延命剤の添付なども行っています。

 

そして「1店舗まるごと経営」により、花や緑の知識をつけてお客様へ発信すること、お客様に喜んでいただくためのフェアの企画運営、自店の商品企画、スタッフマネジメント、商品管理(仕入れ・在庫管理など)、売上原価・人件費管理など、お店を「経営すること」は全てショップマネージャーに委譲。 店舗毎に異なる品揃えやディスプレイで顧客に感動を届けると同時に、各地域に根差したサービスや接客力がリピーターを生み出す経営力につながっています。

 

その結果、2005年にはデザイン・エクセレント・カンパニー賞、2007年には日本フラワービジネス賞、2009年にはポーター賞を受賞。さらに2016年には、日経リサーチ社による消費者調査、日本店大賞生活雑貨部門で「幸せな気持ちになれるブランド」評価第一位を獲得しました。

 

まさに「女性が幸せになるマーケティング」のお手本といっても過言ではない青山フラワーマーケット。

 

まずは、近くにあるお店を訪ねてお客様の立場でその魅力を体感してみてください。きっと、あなたの会社のマーケティングイノベーションのきっかけになることは間違いありません。