体験消費時代のマーケティングヒント

みなさんこんにちは。和田康彦です。
新型コロナウイルス感染拡大によって、昨年は食品の電子商取引(EC)元年といわれるほど、食品EC市場が大きく伸びる一年になりました。
2000年に創業したオイシックス・ラ・大地は、生鮮宅配で独自のネットワークや品ぞろえを拡充する一方で、同業の大地を守る会やらでぃっしゅぼーやを次々に経営統合することで成長してきました。
2021年3月期の連結売上は前年同期比41%増の1000億円。オイシックスだけでも一年間で約7万人の会員が増え、いまでは30万人以上の会員に愛されています。
●強みは全国4000軒の生産者とのネットワーク
オイシックスの強さの源泉は全国約4000軒の生産者と会員を直接結ぶネットワークにあります。
野菜や果物などは天候などにより収穫量が左右され、事業者にとっては生産計画を立てにくいという課題があります。
例えば作りすぎると廃棄しなくてはいけません。そこで同社は、全国4000軒の生産者から届く生産現場の状況や供給量の予測と購入者データを照らし合わせて、最適な需給システムを構築しています。
例えば、ニンジンが採れすぎた場合、過去の購入者データをもとに、ニンジン購入の可能性の高い顧客におすすめをすることで、できるだけ売り切るとともに、それでも余ればミールキットに利用することで食品廃棄率0.2%という驚異的な数字を実現しています。
また、収穫量が少なく市場に出回らない珍しい野菜も直接農家から仕入れ、他社との違いを打ち出しています。
さらに2013年7月には、必要量の食材とレシピがセットになった、主菜と副菜の2品が20分で完成するミールキット『Kit Oisix』を発売。調理時間を節約したいと考える働く女性から大きな支持を得て、シリーズ累計出荷数は8000万食(2021年3月末時点)を突破。同社の主力商品として、新たな市場を開拓しました。
●消費者の「おうち」が食関連ビジネスの主戦場に
2020年、新型コロナウイルス感染拡大によって、在宅勤務が広がり外食を控える消費者が急増することで、自宅でもレストランなどで味わえる本格的料理を宅配で注文する人や、自ら調理する人が増加。
消費者の「おうち」が食関連ビジネスの主戦場になりました。
同社も、本業の有機野菜の宅配をベースに、飲食店の味を食卓に届けるサービスや異業種とのコラボ、多様な食への対応、リアルな売り場の拡充など、巣ごもり需要の拡大を追い風にして事業を成長させてきました。
●飲食店の味を食卓へ
新型コロナウイルス感染拡大によって、食のライフスタイルは激変しました。特に居酒屋を利用する消費者は激減し、外食産業に大きな痛手をもたらしました。
オイシックス・ラ・大地では、コロナを機に外食産業との協業を加速。塚田農場を運営するエー・ピーホールディングスと資本業務提携し、3月には傘下の水産卸会社を子会社化。
のどぐろを使った炊き込みご飯など新たなメニューを開発して、同社の取扱い商品の拡充につなげています。
また、8月には大戸屋ホールディングスと業務提携。大戸屋の人気メニューを自宅で楽しめるミールキットを共同開発し、今後5年で共同事業を30億円規模まで拡大させていく計画です。
●異業種とのコラボで客層を拡大
2020年冬にはウォルトディズニージャパンと組んで、ミールキットを発売。ミッキーマウスやミニーマウスのカタチをしたハンバーグをつくる食材や道具が一緒に届き、子供と一緒に調理する時間を楽しめる、と話題になりました。
また、野菜の育ち方が描かれたランチョンマットやレンコンのきれいな切り方がわかるレシピ冊子を付属。「調理・盛り付け・配膳」すべてのプロセスで子どもが積極的に関わりたくなる要素を盛り込み、食育の事業領域を広げることにも注力しています。
●多様な食への対応
2019年10月には、米国のヴィーガンミールキット「Purple Carrot (パープルキャロット)」の提供を開始。アメリカでは健康意識や地球環境への関心の高まりからヴィーガン食市場が拡大しています。
ただ、アメリカでヴィーガンミールキットを利用している顧客のおよそ8割は「時々ヴィーガン」の食生活を楽しんでいる人たちです。
オイシックスでも、昨日はお肉を食べすぎてしまったから、今日はヴィーガンメニューを。お昼はイタリアンだったから、夜はヴィーガンメニューを。そんな感覚で「時々」ヴィーガンを楽しむ、という新しい選択肢の提供を日本でもスタートしました。
楽しく美味しく心と身体を整えられる新しい食の体験として、多様な料理ジャンルの一つの選択肢として、気軽に親しみ、楽しめるミールキットを提案することで未来の食文化を創造しています。
●リアルも拡充
2016年には、移動スーパーとくし丸を子会社化。地方の過疎地などを中心に、定期的に消費者の自宅近くを廻り生鮮品などを販売しています。2021年3月期の売上は前年同期比54%増の165億円。こちらの事業も高齢者からの支持を得て順調に成長しており、トラック数を現在の740台から早期に1000台に増やす計画です。
●オイシックス成長の背景にある時代や消費者の変化を読む力
食品宅配事業には、楽天やイオン、アマゾンジャパンなどが参入し、競争が激化しています。とはいえ、日本の食品EC化率はわずか3%。現在は市場を奪い合うというよりも市場を広げていく段階といえます。
オイシックスは、2000年の創業以来、時代の変化や女性消費者の心を読むことで成長してきました。
1990年代以降、欧米社会ではダイエットや健康・自然志向が高まります。
「外見はもちろん、内面から美しくなりたい」と考える女性が増加するなか、流行の先端を行くハリウッドスターたちはヨーガへ心酔し始め、ヨーガ・ブームが急速に沸き起こりました。
また1990年後半から、アロマ、ヒーリングなどの言葉が流行し自然派化粧品が見直され始め、2000年以降はLOHASという新しい潮流とともにオーガニックというカテゴリーのスキンケアが注目されるようになりました。
それに加え環境問題、食品の偽造、汚染問題などが後押しとなり、生活者の体に取り入れるものは(肌に対しても)食と同じ安全性を求めるべきという意識が芽生えはじめました。
このような女性の意識や価値観の変化を見抜いて、いち早く安心安全な農産品の宅配事業に参入したオイシックスはまさに先見の明があったといえます。
また、2013年7月に発売を開始したミールキット『Kit Oisix』は、働く女性の増加を先読みして開発された商品です。
内閣府が発表している男女共同参画白書によると2016年の共働き世帯数は1129万世帯。1980年と比較すると約1.8倍の増加となり、今後も増えていくことが予測されます。
また厚生労働省が発表している2016年国民生活基礎調査によると、18歳未満の児童を持つ母親が働いている比率は67.2%、約7割弱の母親が子育てしながら働いていることがわかります。
働く女性が増えるとともに、調理を簡便に済ませたい、でも手抜きと思われたくないと考える女性が増えていきます。主菜と副菜の2品が20分で完成するミールキット『Kit Oisix』は、そのような働く女性の潜在ニーズを先読みして見事成功した商品です。
オイシックスでは、時代の流れを的確に予測するとともに、会員から生の声を聞くことにも注力しています。
定期的にメールや電話で利用者に満足度や改善点を聞くほか、実際の顧客の家を訪問したり、利用者の子供を招いて試食会を実施したりしています。
例えば「カットした小松菜は、2~3cmが食べやすい」など、生の声がなければわからない経験を蓄積して独自商品を増やしています。
一方で、これまでに蓄積していた膨大な顧客データも活用しながら、顧客が「こういうモノが欲しかった」という商品を生み出すことを重視しているのです。
新型コロナウイルス感染拡大によって定着した「巣ごもり需要」やSDGsの浸透によって生まれてきた環境意識や食品ロスへの関心の高まりなど、女性を笑顔にするためには、常に消費者の変化を注視していくことが重要です。