体験消費時代のマーケティングヒント

みなさんこんにちは。和田康彦です。
ワークマンが発表した2021年3月期の業績は、売上高に当たる営業総収入が前期比14.6%増の1058億円、営業利益が25.0%増の239億円、純利益が27.5%増の170億円となり、10期連続で最高益を更新しました。
フランチャイズ(FC)加盟店を含むチェーン全店売上高は20.2%増の1466億円、既存店売上高は14.2%増。既存店の客単価は0.3%の微増でしたが、客数が13.8%と大きく伸び、コロナ禍の中でも圧倒的な強さを見せつけました。
粗利益率の高いプライベートブランド(PB)商品の売上高が39.4%増の872億円となり、大幅な増益につながりました。特にアウトドア、スポーツ関連のPB商品の好調が続いており、PB売上比率はチェーン全店ベースで59.7%となりました。
店舗については、「ワークマン」からの転換を中心にアウトドア・スポーツ衣料の品揃えを拡充した「ワークマンプラス」の出店を増やすと共に、女性向け商品の比率を高めた新業態「#ワークマン女子」を開発。期末店舗数は36店舗増の906店舗(うちワークマンプラス272店舗、#ワークマン女子2店舗)となっています。
今期はワークマンからの転換62店舗を含め、ワークマンプラスを105店舗増やす計画です。また#ワークマン女子はロードサイドに5店舗、商業施設内に6店舗を新設する予定で、10月からはFC展開も始めます。中長期目標としては国内1500店舗を目指し、業態別の内訳はワークマン200店舗、ワークマンプラス900店舗、#ワークマン女子400店舗とする計画です。
●今後の成長の鍵を握る「#ワークマン女子」
「#ワークマン女子」の1号店となった、横浜桜木町「#ワークマン女子」コレットマーレ店は平日の開店時にもレジ待ち行列ができるほど繁盛ぶりです。また東京初出店の東京ソラマチ店も入店整理券を発行する状態が続いているようです。
その後2021年4月2日(金)には、大阪なんばCITY店、4月16日(金)には、川崎駅前の川崎ルフロン店、5月14日(金)には、千住大橋駅前のポンテポルタ千住店がオープン。モール店は5月で5店舗体制になり、今後も年間5~6店をターミナル駅か駅近に直営で出店する計画です。
今後は、モール店で勢いをつける一方、ロードサイド店を中心に10年で400店を出店する計画です。また、モール店は露出効果の高い東名阪地区を中心に数年で20店舗にすることを計画にしています。
「#ワークマン女子」店で販売する製品はワークマン既存店及びWORKMAN Plus店と100%共通。ただし作業服は扱わず、女性4割、ユニセックス2割、男性4割の売り場構成のもと、見せ方を変えて女性売場を拡大して前面に出しているだけです。
●SNSで女性人気に火がつく
現在の高機能ウエア市場は、スポーツメーカーのブランド品が独占しているのが現状です。
そこでワークマンはこれまで空白だった、高機能・低価格帯市場に参入することを決め、2016年一般顧客向けに3つのPBブランドを立ち上げました。
同社は、高機能・高品質ウエアの低価格帯市場は約4000億円の潜在市場があると試算。
ワーキングウエアで培った高品質・高機能をアウトドアビギナー向けに、ファッショナブルなデザインで提供する「Field Core」。
しなやかな風合いとスポーティなデザインを併せ持つスポーツウエア「Find-Out」は、タウンでジョギング、公園をウォーキング、ジムでトレーニングに加え、プリントを入れてチームユニフォームとしても使えるブランド。
さらに、「AEGIS(イージス)」は絶対的な防水性能を装備。バイクを愛するライダー、ウィンタースポーツ、釣りなどのマリンレジャーを愛するアウトドア派がターゲット。
いずれのブランドも高機能アウトドアウエアの半分から3分の1の価格を設定。これまでの価格の常識を変えることで大きな反響を呼ぶ結果になりました。
さらにSNSでの口コミがワークマン人気に拍車をかけることに。裏が凹凸になっていて滑りにくい厨房用のシューズは、妊婦や子育て中のママが「雨の日でも滑りにくい」という投稿から一気に大ブレイク。
溶接工や塗装工が火花が散っても服が燃えないように着る「綿かぶりヤッケ」は一般の人が「冬のキャンプでダウンの上に着ると便利」とつぶやいたことがきっかけで空前の大ヒットに。
アウトドアやスポーツの流行を取り入れ、安全性も考えて明るい色目にしたレインスーツは、バイクに乗る人が気に入り、動画で宣伝してくれてから指名買いが増加。
このように顧客が新たな使用価値を見つけてくれることで、ワークマンの知名度は一気に広がりました。
●新業態「ワークマンプラス」で一般消費者の支持を獲得
2018年9月、ワークマンは一般顧客向けの3つのPBブランドを主軸にした新業態店「ワークマンプラス」の一号店をららぽーと立川立飛にオープン。フランチャイズではなく販売は小売りのプロに委託。広告塔と位置付け、採算ラインの1億2000万円を初年度目標に設定したものの、女性客や若者が押し寄せ3億円に上方修正するほどの大成功を収めました。
ワークマンが狙うのは、ナイキやアディダスといった有名ブランドのスポーツウエアなどを街着で着る「アスレジャー」というファッションスタイル。ここ数年のトレンドの波にも乗り、「ワークマンプラス」は、2021年1月末には全国に269店舗に拡大。今後もワークマンプラスを軸にした出店拡大を急ぐ計画です。
●「ワークマン女子」向け商品を大幅拡充
ワークマンの躍進を支えているのが、ワークマン女子といわれる女性顧客層の拡大です。ショッピングセンターを中心に出店を進める「ワークマンプラス」の店舗増とテレビの情報番組による認知度の向上、SNSによる商品情報の拡散により女性客が半数を占めるまでになっています。
2020年春夏商戦からは、ハイストレッチワンピースやラップショーツ、ロングシルエットジャケットなどの女性専用商品を拡充。また、女性のSサイズを加えたユニセックス商品も大幅に拡充。女性顧客の拡大が今後のワークマン成長の鍵を握っています。
●アンバサダーマーケティングを本格化
プロ向け作業服の専門家はいても、キャンプや釣り、サイクリングや登山、ジョギングといったアウトドアスポーツの専門家は皆無だったワークマン。そこで、製品発表会にアウトドアスポーツに関する情報を発信しているブロガーらを招待、意見を聞いて翌年の製品モデルの開発に活かす取り組みをスタートしました。
その結果、例えば、作業用レインスーツでは毎年バイク向けの機能をプラスすることで大ヒットし、人気ブランド「AEGIS(イージス)」誕生の契機に。
現在では、ワークマン製品を愛用してネットで自発的に発信しているブロガーやユーチューバー、インスタグラマーら25名を「ワークマン製品アンバサダー」に任命。
アンバサダーとコラボした共創商品の開発に取り組むほか、コラボ商品のファッションショーも実施しています。
さらに2021年3月末までにはアンバサダーを50名に増員。またネット評価を生かしたにプロモーションに取り組み始めています。店内の人気商品には、アンバサダーのサイトやSNSに飛べるQRコード付きPOPを設置。顧客はアンバサダーが発信する製品評価ページを見ることで、その商品の特長や使用方法を知ることができます。
●顧客を巻き込み、対話し、共創を実現する
「For the Customers(顧客のために)」を経営理念に成長を続けてきたワークマン。「声のするほうに進化する」を方針とし、社員の声、加盟店の声、お客様の声を聞くことを重視。
インフルエンサーではなく、ワークマンの熱いファンであり、ブランド価値を共有しているブロガー達と「製品開発アンバサダー」として契約し、共創することにより、顧客視点のユニークな商品を開発。時間帯によりターゲットにあった店舗の内装や商品に変更するなど、常に顧客がワクワクするブランド化を推進してコロナ禍の中でもガッツリ顧客の支持を獲得してきました。
顧客の価値観や生活様式が大きく変化するニューノーマル時代は、常に顧客に寄り添い、顧客にとって心豊かでハッピーなライフスタイルを提案していくことがより一層重要になっていきます。