体験消費時代のマーケティングヒント

みなさんこんにちは。和田康彦です。
今回のコラムでご紹介する「クオール薬局」は、1992年の創業以来、調剤薬局業界で5本の指に入るほど目覚ましい成長を遂げています。
2020年6月現在、全国で813店舗を展開し、2020年3月期の売上は1,654億1,100万円。2020年度の調剤薬局売上高ランキングでは、3位に位置しています。
◆変化する調剤薬局市場
①「門前薬局」から「かかりつけ薬局」が主流の時代へ
調剤薬局は全国に約6万店がひしめき、規制に守られてきた業界といえます。しかしながら、超高齢化を迎えて国民医療費の抑制が大きな課題であるわが国では、薬価・診療報酬改定など、調剤薬局業界にとって厳しい環境が続いています。一方で、社会保障や医療の質に対する国民意識の高まりの中、厚生労働省は、2025年までにすべての薬局を「かかりつけ薬局」に転換する、との方針を発表しました。
②大手チェーンによる集約と、異業種からの参入が進む
また、調剤薬局は「かかりつけ薬局」として多様な医療ニーズへの対応が求められるようになり、今後は、大手チェーンによる集約が進むとともに、スーパーマーケットやドラッグストア等の異業種からの参入が増加すると予想されています。すでに米国では昨年、アマゾン・ドット・コムがアマゾン「アマゾン薬局」をスタートしています。
このように、調剤薬局は、従来、大学病院など大病院の周辺に出店し、特定の医療機関からの処方箋を多く集める「門前型」が一般的でしたが、厚生労働省発表の方針のもと、一人ひとりの患者へのサポートをより充実した「かかりつけ薬局」への移行が進みつつあります。今後は、患者が能動的に調剤薬局を選ぶ時代となり、生活者の様々なニーズに対応できる薬局のみが生き残っていくと考えられます。
◆クオール「Qol」に込めた使命
クオール薬局の「Qol」は、「Qaulity Of Life」の頭文字から生まれたもの。この社名には、医療を通じて患者の質的向上を願うという強い想いが込められています。それは、「私たちはすべての人々のクオリティオブライフに向き合きます。いつでも、どこでも、あなたに」という企業理念からも読み取れます。
◆主力の調剤薬局事業と医療関連事業
同社は1993年、クオール薬局の第一号店を東京日本橋兜町に出店。その後、医療機関と1対1の信頼関係に基づく「マンツーマン出店」を基本として、北海道から沖縄まで日本全国に調剤薬局を展開しています。マンツーマン薬局は、医療機関との連携を確立することにより、安心・安全な医療を提供することができ、地域や処方元医療機関の特性に合わせることができます。このように同社は、地域に必要とされるかかりつけ薬局として、質の高い医療と健康サポート機能を備えた薬局を拡充することで成長してきました。また、積極的なM&Aを通して、着実に業容を拡大しています。
一方で、MR(医療情報担当者)や医療従事者の紹介派遣業や出版事業、医薬品製造販売事業も展開しています。
◆強みは「専門性」×「利便性」
①高度で幅広い専門性をもつ薬剤師の育成
同社は、高度かつ幅広い専門性をもつ薬剤師を育成するために様々なプログラムを開発。また高度先進医療に対応するための社内認定制度「QOL認定薬剤師制度」を独自に実施。「QOLがん認定薬剤師」や「QOL糖尿病認定薬剤師」など、薬剤師資格の範囲を超えた高い専門性をもった薬剤師を育成しています。
②患者の利便性を追求した生活密着型店舗展開
創業以来、地域や処方医療機関の特性に合わせた「マンツーマン薬局」を基本として店舗づくりを行ってきた同社は、「あなたの、いちばん近くにある安心」をスローガンに、利用者の利便性に立脚した多様な形態のクオール薬局を展開しています。ローソンやライフと連携した「街ナカ薬局」、ビックカメラと連携した「駅チカ薬局」、小田急や東急と連携した「駅ナカ薬局」など、さらなる利便性を追求した店舗に出店を加速しています。
◆患者(生活者)視点での価値提供「6つのホスピタリティ」
同社の成長の原動力には、常に生活者視点(患者視点)に立った価値提供があります。以下、クオール薬局が大切にしている「6つのホスピタリティ」を紹介したいと思います。
1.どなたにも心地よい場所を目指して
一歩入った瞬間から、くつろげる薬局になるように。クオール薬局は店舗ごとに快適さを追求しています。
2.スピーディな調剤でお待たせしません
調剤の正確性と待ち時間の短縮を支えるのは、クオールが独自開発した「クオール・オールインワンシステム」。患者さまの個人情報保護はもちろん、電子薬歴、在庫管理、調剤過誤防止システムを統合管理しています。
3.高度先進医療に対応した薬剤師を育成しています
クオールでは、抗がん剤などの高度先進医療に対応するため「QOL認定薬剤師制度」を独自に実施。「頼れる薬剤師」の育成を目的として、研修制度やe-ラーニングシステムなど、教育研修制度の充実に力を入れています。
4.異業種と連携し、もっと便利な薬局へ
クオール薬局の目標は、地域の人々が何でも相談できる「かかりつけ薬局」になること。コンビニエンスストアや家電量販店など異業種との連携により、処方箋調剤だけではなく、セルフメディケーションのお手伝いをすることによって、地域のみなさまの健康を支えていきます。
5.薬局にこないときも、応援しています
クオール薬局では、服薬指導や健康相談に役立つオリジナルツールもご用意しています。「QOL向上商品」は、患者さまのクオリティ オブ ライフを向上させることを目的に、薬剤師・管理栄養士の知識を活かして開発したプライベートブランド商品。ご自宅でのヘルスケアを応援します。
6.在宅治療中の患者さまにお薬をお届けします
クオール薬局では、在宅医療における“かかりつけ薬局の薬剤師”の役割の重要性を見据え、創業当時から在宅医療に取り組んでまいりました。治療効果を高め、服薬の自立を促すとともに、患者さまのADL、QOLを考慮した服薬管理、地域の医療従事者と連携を図ることによって、患者さまとそのご家族をサポートします。
◆「非対面で薬を売る」クオール薬局が挑む未来の店づくり
クオール薬局では今、デジタル技術を駆使した次世代店舗の実現に向けての取り組みが始まっています。
65歳以上の高齢者の割合が人口の35%に達する2040年を想定し、店のあり方をゼロベースで見直す将来設計を作成するオンライン医療プロジェクトチームを設置。対面を基本とする薬の販売規制の緩和を見据え、ロボットを使う遠隔服薬指導や宅配サービスなどを考えています。
すでに実施しているICTを活用したサービスとしては、全国のクオール薬局で患者の個々の情報を照会できる「クオールカード」、パソコンからアクセスできる遠隔ロボット「newme(ニューミー)」を通した健康維持コンテンツンの提供、電話を用いたオンライン服薬指導などがあります。さらにナチュラルローソンを利用したロッカーでの薬の受け渡しサービスも始まっています。
今後、病院や薬局への訪問もままならない患者が増えれば、遠隔の服薬指導や薬の受け渡しのニーズはさらに高まることが予想されます。
患者が自宅から薬剤師の服薬指導を受けると、薬を積んだ自動運転車が指定の場所に届く。そんな日も近いかもしれません。
以上、今回のコラムでは、調剤薬局業界3位の「クオール薬局」成長の背景を見てきました。今回ご紹介した、クオール薬局が提供する「6つのホスピタリティ」には、「クオール薬局」ブランドが躍進してきた本質を見て取ることができます。
あなたのブランドや会社も、今一度生活者に提供する価値を明文化して全社で共有してみてはいかがでしょうか。