体験消費時代のマーケティングヒント

みなさんこんにちは。和田康彦です。
総合菓子メーカーのシャトレーゼホールディングス(HD、甲府市)は、「ナボナ」で知られる老舗菓子メーカー、亀屋万年堂(東京・目黒)を買収したというニュースが報じられました。
シャトレーゼHDは、山梨県初の総合菓子メーカーで1954年の創業。主力事業の洋菓子チェーン「シャトレーゼ」は、2020年3月期の売上が、前年比110%増の732億円。国内では556店舗、海外は8カ国・地域に90店舗を展開。苦境に立つ洋菓子業界で異例の成長を見せています。
同社の成長を支えているのが、お客さまに喜ばれる経営、お取引様に喜ばれる経営、社員に喜ばれる経営を実現する「三喜経営に徹しよう」という社是に見ることができます。
一、お客様に喜ばれる経営
わが社は、常に技術革新に挑戦し、より良い商品をより安く提供して、お客様に喜ばれ社会に奉仕する。
一、お取引先様に喜ばれる経営
わが社は、お取引先様の繁栄のお手伝いと奉仕に徹し、運命共同体として共に栄える事を念願とする。
一、社員に喜ばれる経営
わが社は、事業は人なりと信じ、事業の発展を通じて、社員の人間形成を高揚し、会社の繁栄を通じて、社員の豊かな生活を実現し、併せて社会に貢献し、永遠の繁栄と幸福を目指して限りなき前進を続ける。
同社は山梨県甲府市を発祥とし、これまでは都市郊外を中心に店舗を展開してきました。メニューはケーキをはじめとする洋菓子のほか、アイス、和菓子、ピザ、ワインなど400種類を超えます。目を見張るのはその安さ。年間500万個を販売する人気No.1ケーキ「スペシャル苺ショート」は300円(+税、以下同じ)、爆発的ヒットを記録したアイス「チョコバッキー」は1本60円です。
安さと美味しさを実現できた理由は、「ファーム・ファクトリー」と呼ばれる同社独自のサプライチェーンにあります。
山梨県の白州工場を拠点に、素材の調達から生産、配送、そして直売店舗での販売までを自社で管理しており、本来なら市場に流通させる過程で発生する中間マージンやテナント料が要らない菓子業界のSPA(製造小売り)業態を確立。このため相場よりも2~3割安い価格で商品を提供できています。いわば、菓子業界のユニクロのような存在といってもよいと思います。
例えば、牛乳は、山梨県と長野県にまたがる八ヶ岳にある契約牧場から仕入れており、水は甲斐駒ヶ岳のふもとに工場を構え、日本名水百選にも選ばれた「白州名水」を使用。卵や苺、和菓子に用いる小豆も全国の契約農家からそれぞれ仕入れており、加工はすべて自社工場で行っています。
これによって、高い品質の菓子類をリーズナブルな価格で提供することができるようになりました。
一方で、2019年からはプレミアムブランドの「YATSUDOKI(ヤツドキ)」を立ち上げ、1号店を東京・銀座にオープン。シャトレーゼの「スペシャル苺ショート」は300円ですが、ヤツドキの「八ヶ岳川上村契約農場の苺ショートケーキ」は540円でグッと価格帯を引き上げています。今後は大阪や札幌、福岡など全国の都市部に順次出店する計画です。
しかしながら、シャトレーゼの主力である郊外のロードサイド店は、人口減少と過疎化でいずれ衰退は避けられず、頭打ちになっています。また、同社が自負する契約農家の多くは地元・山梨県やその近隣に集中しており、全国展開を進めれば原材料の調達ルートの確保は難しくなるという課題も抱えています。
今回の亀谷万年堂の買収の狙いを、同社会長の斉藤寛氏は、「高齢化が進む中で、シャトレーゼが扱っている日々食べられる手ごろな和菓子はこれから需要が増える。ところが和菓子業界は後継者不足に苦しみ、和菓子のブランドは徐々に減っている状態だ。だから逆に、亀屋のブランド力で和菓子店を増やしたい」と日経新聞のインタビューの中で応えています。
今スイーツ業界では和菓子と洋菓子の融合が進み、新しい価値の提供が進んでいます。シャトレーゼと亀谷万年堂の融合が生み出す新しい価値創造に期待したいと思います。