体験消費時代のマーケティングヒント

2020-11-22 14:18:00
居心地のいい空間や、新たな価値の発見がある店舗づくりで集客力を高めよう。

 

 

  みなさまこんにちは。和田康彦です。

 1027日にリニューアルオープンした「島忠ホームズ」尼崎店に行ってきました。島忠は東京圏を中心に出店しているため、関西ではあまりなじみがありません。ただ、このところのM&A騒動で全国的に知名度が一気に上がったのではないでしょうか。

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 島忠の業績は、20148月期の売上高は16621400万円でしたが、20178月期には14116700万円にまで減少。 営業利益率は2014年の7.7%から、2017には5.4%にまで低下しています。

 ●お客様の生活に寄り添ったライフスタイルを提案

そこで新たな戦略を模索するため、島忠は188月にTSUTAYA(現・蔦屋書店)とフランチャイズチェーン(FC)契約を締結。中期経営計画の中でも掲げている「お客様の生活に寄り添ったライフスタイルの提案」を目指し、家具売り場と相乗効果を生む新業態の開発に社運をかけることにしました。

 蔦屋書店と協業した1号店「TSUTAYA BOOKSTORE ホームズ新山下店」が開業したのは201812月。家具とブック&カフェを融合したライフスタイル型の新業態は、業績が下降線をたどっていた島忠にとっては、起死回生の切り札となりました。

 リニューアル当初は既存客が離れる不安もあったそうですが、旧来型のビジネスからの脱却を図ったことが奏功し、レジ客数、来店頻度、客単価ともに右肩上がりで推移。208月期には、これまで不動の一番店だった横須賀店を抜き、新山下店がトップに躍り出たようです。さらに、新型コロナウイルス感染症拡大の影響も軽微にとどまっており、家具の需要は減っているものの、ホームセンターが好調を維持し、店舗全体では売り上げ、客数ともに伸ばしています。

 その結果、20208月期の売上は前年比4.9%増の15354000万円、営業利益は同6.7%増の959800万円と増収増益を達成しました。

 ●リニューアルコンセプトは「だから、ずっと、つきあえる。

「ホームズ尼崎店」の店舗は2層で約1400平方メートル。オープンから20年が経ち、建物の老朽化が進んでいたこととお客様の生活に寄り添ったライフスタイル提案を強化するために、全面リニューアルされました。

 リニューアルのコンセプトは「だから、ずっと、つきあえる。」とし、2階にはSDGs(持続可能な開発目標)を意識した売り場も設け、新たな店舗イメージを発信しています。ターゲットは従来の顧客である40代以上のファミリーとプレミアエイジに加え、30代のニューファミリー層をメインに設定しており、私が訪れた土曜日の昼過ぎには小さな子供と夫婦の家族がたくさん来店していました。

 また、1階ホームセンターフロアには顧客からの要望が多かったスーパーマーケットを誘致、関東で「食生活 ロピア」を51店舗展開するロピアが関西2号店を出店していました。このスーパーも関西ではなじみが薄いのですが、「同じ商品ならより安く」「同じ価格ならより良いものを」をモットーにしており、激安価格で店内はたくさんの買い物客でごった返していました。

 ●児童書やコミックが充実したブック&カフェエリア

さて、蔦屋書店と協業した2号店「TSUTAYA BOOKSTORE ホームズ尼崎店」は2階フロアに位置し、店舗面積は約6600平方メートル。家具とホームファッション売り場が約5300平方メートル、雑貨・文具とアウトドア、キッズスペースも含めたブック&カフェ売り場が約1300平方メートルで、蔦屋書店のフランチャイジーとして島忠が運営しています。

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 書籍は約13万冊を取り扱い、そのうち児童書は約15000冊、コミックは約37000冊で市内随一の品ぞろえを誇ります。「尼崎の『くらし』を楽しく豊かにするBOOK & CAFE」をコンセプトに、食、美容・健康、暮らしなど7つのテーマを設け、書籍と関連雑貨を融合したゾーニングで売り場を設計。そこに家具も加えたことで、生活シーンをイメージしやすく、より暮らしが豊かになる発見につながる体験型の売り場となっていました。

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 ●雨天でも遊べる大型遊具とアウトドアコーナーも

例えば、カフェスペースのテーブルや椅子は、すべて島忠で販売している商品を使用。コーヒーを飲みながら“書斎での読書”を体験できるようになっています。座ってみて気に入った家具があれば購入も可能。驚くのは家具売り場のソファやダイニングテーブルでも、ドリンクを片手にそこで読書ができるという点です。フロア全体がカフェのような居心地のいい空間になっており、温かみのある照明も落ち着いた気分にさせてくれます。

 店内に2カ所ある「キッズスペース」には、アスレチック風の遊具やお絵描きができる黒板、ボルダリングなど小さな子供が自由に遊べる遊具を配置し、親子がゆっくり過ごせるように工夫しています。また、児童書コーナーにも購入可能な子供椅子が置かれ、自由に遊べる空間と知育グッズが用意されています。

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 アウトドアコーナーも隣接されていて、アウトドアグッズとともにキャンプや山登り、釣りなどアウトドア関連書籍や旅行書を販売。アウトドア用のテーブル、チェア、テントを使って、親子で外遊びの体験もできます。

 ●家具売り場にも本や雑貨を品揃え

さらに家具売り場には、テーマに沿って家具と本、雑貨を融合したコーナーがあり、見ているだけでも楽しい構成になっています。他にもキッチン雑貨の横に料理本、収納用品売り場には収納のノウハウ本など、本と関連性のある商品を軸にした売り場は、提案力があふれています。

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 ネット通販が浸透し、商品の品揃えや品質、接客だけでは店舗の優位性を保てなくなった今、リアル店舗での差別化はますます困難になってきています。

 島忠ホームズ尼崎店のような、居心地のいい空間や、新たな価値の発見がある店舗づくりがネット時代でも消費者を引き付ける鍵になります。