体験消費時代のマーケティングヒント

2020-08-05 06:28:00

みなさんこんにちは。和田康彦です。 

21世紀は、ブランドづくりの時代と言われています。「モノ」中心の時代は終わり、「良いモノを作れば売れる」という時代はもはや過ぎ去りました。成熟社会といわれる今日、世の中にはモノがあふれています。モノづくりのレベルはどんどん上がり、品質の良い商品を提供できる会社は今やそこら中にあります。

 

 しかしながら、単に品質が良いだけでは、今の消費者は「買いたい気気持ち」になってくれませんね。世界に名をとどらかす日本の優秀なモノづくりの大企業すら、現在苦境に陥っているのも、ここに要因があるような気がします。

 

たとえば、イギリスの「ダイソン」という掃除機メーカーがあります。今では誰もが知る掃除機「ダイソン」ですが、1998年に日本に進出したときの認知率はほとんどゼロ。しかしながら、2004年日本向けの小型軽量商品を発売した際、コマーシャルの最後で「ダイソン。吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機」。とナレーションで締めくくったところ、爆発的に売れるようになります。

ダイソン.jpg

当時の掃除機のCMといえば、可愛い奥さんが出てきて使いやすさをアピールする内容が定番でしたが、このダイソンのコマーシャルでは、掃除をする姿など一切出てきません。新商品の画像と機能を説明するだけで、最後は、皆が気にもかけていなかった「吸引力」という言葉で締めくくられ、女性のこころをつかんだわけです。

 これをきっかけにダイソンの掃除機は、日本でも爆発的に売れました。英調査会社ユーロモニターインターナショナルによると日本の掃除機市場でダイソンのシェアは2014年に6%でしたが、2019年には17%に達し、パナソニックに次ぐ2位になりました。ただ、コードレス掃除機に限ればすでに50%を超えているといいます。

 このようにダイソンの掃除機は、家電といわれる日本で、海外メーカーの商品として国産品と互角に戦う数少ない例となりました。

 ところでみなさんは「ダイソン」と聞いてどんなイメージを思い浮かべますか。

 私の知り合いの女性10人に聞いてみたところ、

「独創的で先端的なイメージ」「高級、高性能、憧れ」「CMが印象的」「技術力がある」「独特の形の掃除機や扇風機など、一目見てこのブランドだとわかる特徴的なデザイン」「すごい吸引力の掃除機のイメージ」「独自品質で高性能なブランド」「未来型の家電」「個性的な商品を開発する会社」「死ぬほど吸い込む掃除機」「斬新なデザイン」といった声が帰ってきました。

 では、パナソニックの掃除機と聞いて、どんなことをイメージしますか。

こちらも同じように10人の女性に質問したのですが、ほとんどの女性が「何もイメージが浮かばない」という回答でした。私も全く同じで、「まあパナソニックだから平均以上かな」くらいのイメージしか浮かびません。

 とはいっても、日本のモノづくりの力が決して失われたわけではないと私は思います。日本企業の技術力はまだまだ高いといえます。しかしながら、ダイソンの例からも言えるように、「モノづくりでは勝った」日本の企業も「ブランドづくりでは負けた」といってもいいのではないでしょうか。

 ダイソンの他にも、アメリカからやってきた「ルンバ」というロボット型掃除機も、ニュータイプ掃除機のブームの口火を切って、今ではロボット型掃除機の代名詞にもなっています。

 

つまり、消費者を動かす力は、「モノ」から「ブランド」へと大きくシフトしており、お客様から選ばれるためには、モノづくり志向からブランド作り志向へと発想を転換しなければなりません。そしてモノを超えた心に響く価値を創造することが重要になってきました。